たばこを吸うと新型コロナウイルスの受容体の発現が増える可能性

喫煙が新型コロナ重症化を導くメカニズムが明らかに
以下は、記事の抜粋です。


たばこが新型コロナウイルス感染症の重症化を導く致命的なメカニズムもはっきりしてきた。この5月16日、Developmental Cell誌において、米国の研究グループが研究結果の詳細を速報した。今回、この研究結果などを踏まえ「たばこ文化」のこれからについて考察してみたい。

そこで分かったのは、簡単に言えば、ウイルスが肺の細胞に侵入するためのいわば“港”をたばこが作るということだ。この“港”の存在については、今後、ウイルスの感染阻止をしていくために重要と考えられるので、少し詳しく説明する。

徐々に分かってきているのは、ウイルスが肺などの細胞に入るときに、足がかりとなる存在があるということ。それが、口や鼻などから吸い込んだウイルスが停泊する“港”である。

その正体は、肺の細胞などに存在している「アンジオテンシン転換酵素2」、略してACE2だ。一般の人にとっては、あまりピンとこないかもしれないが、「ACE」は、医療従事者の中ではなじみがある存在だ。ACEは高血圧の治療で重要な役割を果たすことで有名なのだ。

ACE2は、肺のほか、心臓や消化管、腎臓などに存在している。このACE2の量と喫煙が密接に関連すると、今回、米国の研究グループは断定した。

米国の研究グループが明らかにしたのは、たばこを吸うことで、肺の細胞でACE2を増やしてしまうことだ。たばこを吸うのは「ウイルス大歓迎」の看板を肺の中に掲げるようなものだ。

人間とネズミの肺の細胞を1個単位で分析。たばこの煙によって、細胞でACE2が増えることを確認した。結果的に、ウイルスは細胞の中に入りやすくなる。喫煙者本人だけでなく、周囲の人が煙を吸ってもACE2は増えるため、感染者の重症化、さらなる感染拡大にもつながる。

なお、今回の米国の研究では、ウイルスを排除するために体から出てくるインターフェロンの影響でもACE2が増えることが示された。要するに、体がウイルスを排除しようとする仕組みすら踏み台にして、ウイルスが体の中に入り込もうとしていることになる。


元論文のタイトルは、”Cigarette smoke exposure and inflammatory signaling increase the expression of the SARS-CoV-2 receptor ACE2 in the respiratory tract”(和訳:たばこの煙曝露と炎症性シグナル伝達は呼吸器系におけるSARS-CoV-2受容体ACE2の発現を増加させる)です(論文をみる)。以下は、論文要約の和訳です。


致死的なSARS-CoV-2感染を媒介する因子については十分に理解されていない。我々は、げっ歯類およびヒトの肺において、タバコの煙がSARS-CoV-2受容体であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の用量依存的なアップレギュレーション(発現量の増加)を引き起こすことを示した。単細胞シークエンシングデータを用いて、ACE2が気道の分泌細胞の一部で発現していることを明らかにした。慢性的な喫煙暴露は、この細胞集団の拡大とそれに伴うACE2発現の増加を誘発する。対照的に、禁煙はこれらの分泌細胞量を減少させ、ACE2の発現レベルを低下させる。さらに、ACE2発現は炎症性シグナル伝達に反応し、ウイルス感染やインターフェロン治療によってアップレギュレートされることを示した。これらの結果から、喫煙者が重度のSARS-CoV-2感染症に特に罹患しやすい理由が部分的に説明できるかもしれない。さらに、我々の研究は、肺細胞におけるインターフェロン刺激遺伝子としてACE2を同定し、SARS-CoV-2感染症がACE2レベルを上昇させ、ウイルスの伝播を促進するポジティブフィードバックループを形成する可能性を示唆している。


御覧のように、論文の結論は解説した日本語の記事に比べるとかなり控えめで、「喫煙者が重度のSARS-CoV-2感染症に特に罹患しやすい理由が部分的に説明できるかもしれない。」です。私もこの程度だと思います。

「そこで分かったのは、簡単に言えば、ウイルスが肺の細胞に侵入するためのいわば“港”をたばこが作るということだ。」と書かれているのは不正確で、「そこで分かったのは、簡単に言えば、ウイルスが肺の細胞に侵入するためのいわば“港”の発現をたばこが増やすということだ。」が正確な表現です。なかったものをつくるかのような表現はやりすぎです。

Developmental Cell誌に掲載された論文はその前に”bioRxiv”というプレプリントサーバーに投稿されています(論文をみる)。以下は、その論文の図で、ACE2の発現(mRNA)量の喫煙による変化が示されています。確かに、インターフェロンでも同様に発現の増加が認められますが、これが実際にどの程度のSARS-CoV-2受容体量の増加に相当するかは示されていません。図では、用量依存的に増えるように見えますが、それほどでもないようにも見えます。

日本語の記事が書いている「たばこが新型コロナウイルス感染症の重症化を導く致命的なメカニズムもはっきりしてきた。」というのも書きすぎで、これで、「『たばこ文化』のこれから」は考察するのには無理があると思います。

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