以下は、記事の抜粋です。
日本人1人の全遺伝情報(ゲノム)を、理化学研究所の研究チームが解読した。病気に関連した遺伝子の研究は進んでいたが、生命の設計図といわれるゲノムを日本人について解読したのは初めて。世界では米、英、中国、アフリカ、韓国人のゲノムが解読されている。
ゲノムが解読されたのは、本州に住む男性。理研の角田達彦情報解析研究チームリーダーらが男性の血液から取り出したDNAを解析し、遺伝子にある30億塩基対の配列を5ヶ月で読み取った。
2003年に初めて公表されたヒトゲノムと比較すると、30億塩基対のうち、約300万塩基対の配列が違っていた。このうち40万塩基対は、これまでの研究でも知られていない違いだった。
さらにこのうち、96カ所は遺伝子としての働きを失っていることもわかった。日本人の解読がさらに増えれば、日本人固有の特徴も見え、病気の原因研究を詳しく調べるのに役立つとみられる。
元論文のタイトルは、”Whole-genome sequencing and comprehensive variant analysis of a Japanese individual using massively parallel sequencing”です(論文をみる)。
日本人男性1人の全ゲノム配列を高精度に読んだという仕事です。ヒトのゲノム長は約3ギガ(30億)塩基ですが、精度を上げるために40回分(約120ギガ)読んだそうです。
こういう仕事は、ハード(DNA解析装置、シーケンサー)と配列情報を解析するソフトの性能に依存しているのですが、次世代シーケンサーは米国・イルミナ社のGenome Analyzer IIで、解析ソフトやデータベースはほとんどすべて海外のものでした。
高精度に読んだ配列情報をこれまでに報告された6人のデータと比較しただけで論文が書けるとは、しかもNature geneticsに掲載されるとは驚きです。関連記事などをみて、次世代シーケンサーを用いれば個人ゲノムの解読は簡単で、臨床応用もだいぶ前に始まっていると思っていたからです。私はまだ次世代シーケンサーを使ったことがないのですが、過大評価していたようです。やはり、3ギガの塩基配列を正確に読むという作業はけっこう大変なのでしょう。
我々が使っているシーケンサーは、PCRして電気泳動するタイプです。この論文で使われた「次世代シーケンサー」はPCRはするが電気泳動しないタイプです。「次々世代シーケンサー」というのは、PCRも電気泳動もしないタイプで、短時間で複数のDNA断片の配列を決められるそうです。
一人のゲノムを解析するのに、理研が5ヶ月もかかるのであれば、「次世代シーケンサー」はまだ臨床に普及するのは難しいと思いました。正常組織のゲノム情報は一生に一度読めば良いので、時間は問題ではないかもしれないですが、がん組織のゲノムなどを比較する場合は、データ解析もふくめてやはり1ヶ月以内、できれば1週間以内で読める必要があると思います。
おそらく「次世代」は研究レベルどまりで、臨床に普及するためには「次々世代」まで待つ必要がありそうです。しかし近い将来、個人のゲノムが1週間で読める時代は必ず来るし、その時には医学も医療も大きく変わるだろうと思います。
関連記事
1個人(51歳白人男性)の肺がん組織と正常組織の全ゲノム配列比較
個人全ゲノム配列に基づく臨床アセスメント:遺伝的に心血管リスクの高い40歳男性患者のケース
コメント