Clinical efficacy of a RAFinhibitor needs broad target blockade in BRAF-mutant melanoma
以下は、論文要約の抜粋です。
B-RAFは、ヒトがんで最も高い頻度で変異がみられるプロテインキナーゼである。B-RAFの発がん性変異(V600E)がメラノーマで高頻度でみられること、さらに、これらの腫瘍がRAF/MEK/ERK経路に依存的であることが示されたので、B-RAFキナーゼ活性の阻害がメラノーマ患者にベネフィットをもたらす希望がみえてきた。
前臨床実験で、発がん性B-RAFキナーゼ活性の強力な阻害薬、PLX4032がBRAF変異細胞においてRAF/MEK/ERK経路を選択的に阻害し、BRAF変異異種移植片を退縮させることが示された。毒性試験では、高い選択性に一致した広い安全域が確認された。
PLX4032の結晶製剤を用いた第1相臨床試験を行い、メラノーマ患者の一部で、治療前と治療後2週間にバイオプシーサンプルを腫瘍から採取し、RAF/MEK/ERK経路の阻害をモニターした。その結果、ERKのリン酸化はかなり阻害されているのにもかかわらず、臨床評価では腫瘍の退縮が認められない事実が明らかになった。
新しい非晶質製剤を用いて高用量投与を行ったところ、患者の腫瘍でERKリン酸化が80 %以上阻害され、腫瘍退縮反応と相関した。
関連記事で紹介しましたが、B-RAFキナーゼ阻害薬(PLX4032)の第1相臨床試験での成果がNEJMで報告され(論文をみる)、マスコミでも「メラノーマ治療のブレークスルー」などと華々しく報道されました。この論文は、その直後にNatureに掲載されたもので、PLX4032に関する科学的データを報告しています。
論文の要点は、PLX4032が臨床的効果を発揮するためには、腫瘍細胞のRAF/MEK/ERK経路をほぼ完全に阻害する必要があるということです。
具体的には、バイオプシーしたサンプル中でのリン酸化されたERKを免疫組織化学で調べ、投与薬物量、リン酸化ERKおよび腫瘍退縮の3つを比較しています。細かいことですが、核のリン酸化ERKではなく、細胞質のリン酸化ERKが臨床効果と相関するそうです。
いずれにしても、臨床効果を得るためにはERKシグナルを80%以上阻害する必要があるというのには驚きました。受容体阻害薬やスタチンでは、活性を半分も阻害すればかなり効果があると思います。
論文では議論されていませんでしたが、用量を増やした結果、発がん性B-RAFキナーゼだけではなく他の標的にも働く可能性があるのではと考えました。
多くの患者で腫瘍が再増殖し、原因不明の薬物耐性が生じたそうです。これらの結果は、PLX4032が決して「魔法の薬」ではないことを示しています。
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