N-ミリストイルトランスフェ ラーゼ阻害薬:アフリカ睡眠病(トリパノソーマ感染症)の治療薬候補

N-myristoyltransferase inhibitors as new leads to treat sleeping sickness

以下は、論文の要約です。


アフリカ睡眠病ともよばれるトリパノソーマ感染症は、Trypanosoma bruceiの感染で発症し、毎年約30,000人が死亡する。現在、本疾患に対する治療はあるが、効果も安全性も低い。特に、病原体が中枢神経系に感染した疾患後期の患者に対してはほとんど無力である。

本研究では、有効な治療が欠如する現状を打開するため、 N-ミリストイルトランスフェラーゼ(NMT)が良い分子標的になることを証明し、これを標的とするリード化合物の発見を報告する。リード化合物を用いてT. bruceiのNMTを阻害すると、トリパノソーマ病原体は短時間で死滅し、トリパノソーマ感染マウスは治癒した。

これらの高親和性NMT阻害薬は、酵素の基質結合ポケットに結合し、病原体細胞内でのN-ミリストイル化を阻害する。これらの有望な薬学的特性をもつ化合物の発見は、本疾患に対する経口治療薬の開発へと発展する可能性が高い。


タンパク質のN-ミリストイル化は、真核生物及びウイルスのタンパク質合成の際、開始メチオニンの脱離が生じた後、新たに露出したN末端のグリシン残基に炭素数14 からなる飽和脂肪酸が転移される修飾反応です。この修飾は、細胞情報伝達に関わるタンパク質に多く認められており、膜への結合、タンパク質-タンパク質相互作用において、非常に重要な役割を担うことが報告されています。

T. bruceiには、N-ミリストイルトランスフェラーゼ(NMT、TbNMT)をコードする必須遺伝子が1つあり、TbNMTはARFなどをミリストイル化します。

ヒトには、2つのN-ミリストイルトランスフェラーゼ(NMT、HsNMT1 and HsNMT2)をコードする遺伝子が存在し、HsNMT2がTbNMTと相同性が高く、全体では55%の同一性と69%の相同性を示します。活性中心から5Å以内の31アミノ酸については、83%の同一性と90%の相同性を示します。

この隙間を狙ったTbNMT特異的阻害薬ができれば、つまり、ヒトのNMTには影響せず、トリパノソーマのNMTだけを阻害するような薬物ができれば、有望な治療薬になるはずです。この論文では、62,000の化合物からスタートして、DDD85646という化合物に到達しました。

トリパノソーマは、自身の細胞表面にある異型表面糖タンパク(VSG)の構造を周期的に切り替える抗原変異という過程を通してヒトの免疫応答を回避しています。この過程には、ミリストイル化されるARFが介するエンドサイトーシスが非常に重要であることも、トリパノソーマがミリストイル化阻害薬に高い感受性を示す理由ではないかと考えられています。

現在、中枢神経系への移行性とTbNMTに対する特異性を高めるという努力が続けれらているそうですが、とりあえず経口治療薬開発に向けてのリード化合物ができた、という話です。

感染末梢血中のトリパノソーマ。丸いのは赤血球。

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