統合失調症の新たな原因遺伝子発見 岐阜薬科大など
統合失調症:細胞増殖遺伝子欠如が一因 岐阜薬科大が発表
精神疾患の原因遺伝子特定
精神疾患に関与の遺伝子特定 岐阜薬科大グループ
以下は、毎日新聞の記事の抜粋です。
岐阜薬科大の原英彰教授らの研究グループは10月14日、人間の誰もが持つ細胞増殖遺伝子HB-EGFの欠如が統合失調症の発症原因の一つであることを突き止めたと発表した。同日付の米国科学誌PLoS ONEに掲載。HB-EGFは、がん研究などで注目されてきたが、精神疾患との因果関係を示したのは初めてという。
原教授らは、前脳のHB-EGFを別の遺伝子に取り換えて8週間が経過したマウスと、正常なマウスを比較。遺伝子取り換えでHB-EGFが欠損したマウスは、落ち着きなく動き回り、コミュニケーション能力や記憶力の低下がみられた。これらの行動は、統合失調症に特徴的な行動だという。
また、欠損したマウスは神経に伝達される刺激を受け取る神経細胞「樹状突起」につながっている細胞の一部「スパイン」が正常なマウスの半分程度に減少。神経伝達物質「モノアミン」の分泌量も正常なマウスより約20%減少していた。スパインやモノアミンが減少する病態も統合失調症患者に多くみられる。原教授によると、これほど多くの統合失調症の病態につながる遺伝子の特定は初めて。
原教授は「統合失調症は、原因が分からないために個々の症状を治す対症療法が中心だった。今回の発見は、統合失調症を本質的に治す新薬開発につながると思う」と話している。
元の論文は、以下で見ることができます。
Generation and Characterization of Conditional Heparin-Binding EGF-Like Growth Factor Knockout Mice
論文の要約は、以下の通りですが、記事とは少し違います。
1)HB-EGF遺伝子をventral forebrain(腹側前脳)特異的にノックアウトするとマウスに行動異常がみられた。そして、この異常行動が抗精神病薬で抑制された、2)脳内のドーパミン量とセロトニン量が変化した(増えた部位も減った部位もある)、3)前頭前野とよばれる部位のニューロンの棘突起密度が減少した、4)MNDA受容体のNR1サブユニットとPSD95とよばれるタンパク質の量が減少した、5)リン酸化されたEGF受容体とCaMKIIが減少した。
論文は、”These results suggest the alterations affecting HB-EGF signaling could comprise a contributing factor in psychiatric disorder.”と控えめに結論しています。
このように元の論文は、ノックアウトマウスの表現型をただ記述しただけの極めて地味な論文です。「統合失調症の新たな原因遺伝子発見」とか「統合失調症:細胞増殖遺伝子欠如が一因」とか「精神疾患の原因遺伝子特定」などの見出しは、明らかに不適切です。
「モノアミンが減少する病態も統合失調症患者に多くみられる」というのも事実ではありません。統合失調症では、脳内ドーパミンやセロトニン量の変化はないという報告がほとんどです。また、統合失調症の患者の脳でHB-EGFの異常が見つかったわけではないので、今回の発見が統合失調症を本質的に治す新薬開発につながるというのは、言いすぎです。
どうして、こんなに地味な論文がこれほど派手に、しかも誤って報道されるのでしょうか?
サッカーのシュミレーション(相手選手との接触による転倒を模擬して審判を欺く行為)という反則を連想します。
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