研究におけるインセンティブとアウトプットの関係

ダニエル・ピンク氏は、米上院議員の経済政策担当補佐官を務めた後、クリントン政権下でロバート・ライシュ労働長官の補佐官兼スピーチライター、1995 年から 97 年までアル・ゴア副大統領の首席スピーチライターをつとめた後、フリーになったアメリカ人ジャーナリストです。

「やる気に関する驚きの科学」は、彼の講演の日本語訳です。動画もあります。以下に内容を要約します。


The candle problem(ロウソク問題)は、1945年に、カール・ドゥンカーという心理学者が考案した行動科学の実験です。私が実験者だとします。私はあなた方を部屋に入れて、下の絵のように、ロウソクと、画鋲と、マッチを渡します。そしてこう言います。「テーブルに蝋がたれないようにロウソクを壁に取り付けてください」。あなたならどうしますか?

答えは、「画鋲が入っている箱をテーブルと平行になるように画鋲で壁にとめて、その箱の上にロウソクを立てる」です。普通は、5-10分で答えがみつかるそうです。

このロウソク問題に対するインセンティブの影響を調べてみました。その結果、「上位25パーセントの人には 5ドルお渡しします。1番になった人は 20ドルです」という報酬を示したグループは、報酬を示さなかったグループよりも3分半も長く時間がかかったそうです。

一方、以下のように画鋲と箱を別々にしたThe candle problem for dummies(サルでもできるロウソク問題)では、インセンティブを与えられたグループの方が断然勝ったそうです。

これらの結果に基いて、ダニエル・ピンク氏は、聴衆に問いかけます、「ご自分の仕事を考えてみてください。あなた方が直面している問題は、サルにもできる種類でしょうか? 明確なルールと1つの答えがあるような? 」。

そして次のように結論します、「そうではないでしょう。ルールはあいまいで、答えは驚くようなものであり、けっして自明ではありません。ここにいる誰もが、その人のバージョンのロウソクの問題を扱っています。そしてロウソクの問題は、どんな種類であれ、どんな分野であれ、If Then式の報酬は――企業の多くはそうしていますが――機能しないのです」

最後に、彼は以下のようにまとめています。

(1) 20世紀的な報酬、ビジネスで当然のものだとみんなが思っている動機付けは、機能はするが驚くほど狭い範囲の状況にしか合いません。
(2) If Then式の報酬は、時にクリエイティビティを損なってしまいます。
(3) 高いパフォーマンスの秘訣は報酬と罰ではなく、見えない内的な意欲にあります。自分自身のためにやるという意欲、それが重要なことだからやるという意欲。(アメとムチではなく、自主性・成長・目的が重要)


大学はインパクトファクター、特許の数、そして研究費の獲得額などを競っています。研究成果が出なければ、任期切れになって失職する人もあります。多くの関係者は、このIf Then(アメとムチ)式状況が研究におけるクリエイティビティにプラスの効果があると信じているようにみえます。

私は、遊び心がなく、失敗も楽しめないような研究は、かえって良い結果につながらないと以前から思っていました。上の記事はビジネスについてのものですが、読んで目からウロコが落ちました。研究も、クリエイティビティが要求されるビジネスの一つかもしれませn。

時間のある人は、ぜひ講演の動画もみて下さい。英語の勉強にも、プレゼンの勉強にもなります。

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