以下は、記事の抜粋です。
インフルエンザ流行期に、治療薬タミフルの成分が下水処理場から河川に放流された排水中に高い濃度で含まれていることを、京都大流域圏総合環境質研究センター博士課程3年ゴッシュ・ゴパールさんと田中宏明教授らが突き止めた。
インフルエンザに感染している野鳥などがこの水を飲んだ場合、ウイルスがタミフルの効かなくなる耐性になる恐れがあるという。
研究チームは、京都府内にある三つの下水処理場について、放流水と処理場の上流、下流の河川水のタミフル濃度を測定した。その結果、季節性インフルエンザ流行のピークにあたる今年1月下旬~2月上旬に、放流水で水1リットルあたり最大約300ナノ・グラム(ナノは10億分の1)、下流の河川水では最大約200ナノ・グラムを検出した。
沈殿処理した下水を浄化する標準的処理を行っている2処理場ではタミフルの40%以下しか除去できていなかったが、標準的処理に加えてオゾン処理もする処理場では90%以上除去できていたこともわかった。人が服用したタミフルの約80%は、そのまま体外に排出されているとされる。
(2009年8月15日03時12分 読売新聞)
記事中の「インフルエンザに感染している野鳥などがこの水を飲んだ場合、ウイルスがタミフルの効かなくなる耐性になる恐れがある」というのは本当でしょうか?
タミフル(一般名:オセルタミビル)は、ウイルスのノイラミニダーゼという酵素を特異的に阻害し、宿主細胞内で増殖したウイルスが、宿主細胞外へ遊離するのを抑制し、インフルエンザウイルスの増殖を抑制します。そして、この酵素阻害作用はタミフルの濃度に依存しています。
治療的には、インフルエンザ様症状が発現してから、48時間以内に、タミフル75mgを含むカプセルを1日2回 投与します。予防的には、同カプセルを1日1回投与します。つまり、少なくとも1日あたり75mgのタミフルを服用してはじめて、ヒト体内に存在するウイルスのノイラミニダーゼが阻害されます。
薬物への耐性は、様々なメカニズムで生じることが知られていますが、ウイルスや細菌の増殖に影響しない低濃度の薬物によって、耐性ウイルスや耐性菌が誘導されることは報告されていません。記事によると最大でも下水1リットルに含まれるタミフルの量は、予防的投与量の25万分の1です。
もちろん、トリとヒトでは違いがあると思いますが、トリがタミフルを多く含む下水をどんなに多く飲んだとしても、トリに感染しているウイルスのノイラミニダーゼが下水中のタミフルによって阻害されることはないと考えられます。つまり、野鳥が京都の下水を飲むことは、インフルエンザ・ウイルスがタミフルに対する耐性を獲得するかどうかに関係ないと思われます。
耐性ウイルスが生じやすいかどうかは、ウイルスそのものの性質や、臨床における投与や服用のされ方に強く依存します。ヒトから排泄された下水中の微量のタミフルによって、トリ・インフルエンザのタミフル耐性が誘導される「恐れ」について科学的な根拠を示してほしいですね。
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