「バーチャル薬理学」で既存の創薬プロセスを劇的に加速させ未知の薬も同定可能に
これはすごい進歩だと思います。以下は、記事の抜粋です。
カリフォルニア大学のブライアン・ショイチェット氏とジョン・アーウィン氏は、ウクライナの化学サプライヤー「Enamine」と共同でバーチャル薬理学の知識と分子イメージング技術を用いて「バーチャル薬理学プラットフォーム」を開発しました(論文をみる)。
Enamineは、過去10年間にわたって1分子当たり100ドル程度のコストで、これまで存在しなかった数多くの薬物化合物を生成してきた企業。何万種類もの標準的な化学的構成要素を、数百種類以上の化学反応を用いて互いに組み合わせることで、1億種類以上の薬物化合物をオンデマンドで生産する効率的な手法を構築しています。
ショイチェット氏とアーウィン氏は、Enamineと提携することで手に入れた膨大な数の仮想薬物化合物に関するデータを「ZINC」と呼ばれる無料の創薬データベースに組み込みました。ZINCには記事作成時点で7億5000万種類を超える仮想の薬物化合物データが収録されており、Enamineやほかのサプライヤーが日々新しいデータを追加しているため、その数は時間が経過するにつれて増加するものと推定されています。
研究チームは「ドッキング」と呼ばれる手法を用い、Enamineの仮想薬物化合物データを計算薬理学的アプローチと適合する3次元化学モデルに変換。これにより、データベース内に収録されている「何億種類もの仮想薬物データ」と「特定の生物学的標的」がどのように結合するかを3Dで迅速にシミュレートできるようになったそうです。
ZINCは2020年までに合成されたことのない化合物10憶種類以上の3Dモデルを含むようになると予測されています。研究チームは「我々のプラットフォームは現在、一般的な薬物スクリーニングライブラリで利用可能な分子の100倍以上の分子をスクリーニング可能です。分子の多様性は今後も増加し、すぐに1000倍以上の分子をスクリーニングできるようになるでしょう」と話しています。
研究チームは、ZINCのデータベースの中から2つの無関係な生物学的標的(抗生物質耐性に関係するβラクタマーゼや、精神病や習慣性行動に関係しているとされているドーパミンD4受容体)に対して有効な薬物分子を検索。バーチャル薬理学プラットフォームを用いたところ、これまで合成されたことのない数百種類の新薬を検出することに成功。この中には既存のβラクタマーゼ阻害剤としては最も効果が強いものとして知られる薬物や、最も強力なドーパミン受容体活性化剤のひとつも含まれていたそうです。
ZINCを用いることで、これまで合成されたことのない薬物分子であっても特定の物質に作用するか否かを検査できるようになるので、研究者たちはより強力な薬物候補を特定することができるようになるとのことです。
まだこの世に存在していないけれども、合成できる可能性のある化合物を含むデータベースを薬物標的として注目される分子との相互作用を調べるという、ありそうでなかった手法です。
未知の標的と相互作用する分子は無理だとしても、既存の標的分子とならば、新しい化合物をどんどん見つけることが可能かもしれません。この手法を使えば、既存薬と同じ分子標的を持つbetterな薬は見つけられると思います。それでも、新薬の開発を特許切れが上回っている状況をひっくり返すことはできないと思います。
論文には「バーチャル薬理学」という言葉は使われていません。論文は、”ultra-large docking library for discovering new chemotypes“というタイトルです。この化合物ライブラリーはバーチャルなので、敢えてよぶとすれば「バーチャル化合物ライブラリー」だと思います。薬理学なら、「薬理学電子教科書」をご覧ください。
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