4月20日の日経朝刊に、「独創性と探究心」というシリーズの最初として、テキサス大の柳沢正史氏が紹介されていました。このシリーズでは、「北米を舞台に誰にも負けない独創性とあくなき探究心を武器に成果を出し続ける『日本の頭脳』を紹介する。」ということです。
柳沢氏は、大学院生時代にエンドセリンを発見し、31歳でテキサス大の准教授に採用されました。現在は、オレキシンという新しい研究テーマで、睡眠の研究をされています。
「柳沢氏が渡米の誘いを受け入れた最大の理由は、『早く独立したかったから』。『若くしてアイデアを出しても、教授になるまで10年も人の下で働いたら、自分の仕事はできない。一流を目指すなら、若手研究者は早く独立してほしい』と力説する。」と書かれています。
記者は、「ノーベル賞受賞者のJohn Vane博士による高い評価が世界を駆け巡った」ことがテキサス大で准教授として採用された最大の理由のように書いています。しかし、私は、当時指導教官だった真崎教授が、エンドセリン発見の功績を大学院生の柳沢氏のものであることを認めたことが最大の理由だと思います。
また、記事の最後に記者は、「日本の優秀な若手研究者が教授の下からなかなか独立したがらない現状が歯がゆくて仕方ないようだ」と推測していますが、この部分には異議があります。独立したがらない優秀な若手研究者がそれほど多くいるとは思えません。
むしろ、若手研究者だけではなく、自分でアイディアが出せて論文も書けるベテランの准教授が独立を希望しても、独立が認められない保守的な大学運営システムが若手研究者の独立を阻害している最大の原因だと思います。
2007年4月1日に学校教育法が改正され、それまで「教授の職務を助ける」ことを職務としていた助教授や助手が准教授や助教となり、教授と同等の職務、「専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の優れた知識、能力及び実績を有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。」に変りました。
また、文部科学省や学術振興会から提供される研究資金も研究者各個人を対象にしていますし、いわゆる「小講座制」も形の上では解体されています。このような状況にもかかわらず、教授だけでルールを決定する「大学の自治」を利用して、多くの生命科学や医学系の研究室では旧態依然とした体制が維持されています。
マスコミが本気で日本の優秀な研究者を独立させたいと考えるなら、海外へ飛び出すことを奨励するよりも、違法に近いルールを勝手に決めて独立を阻害している大学を批判する方が有効だと思います。
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