FK506(タクロリムス)感受性遺伝子の分裂酵母ゲノムワイド・スクリーニング

Genome-Wide Screening for Genes Associated with FK506 Sensitivity in Fission Yeast

以下は、論文要約の抜粋です。


我々は、分裂酵母モデル系を用いてカルシニューリン・シグナル経路を研究するために、カルシニューリン阻害薬FK506 (tacrolimus)に対して感受性を示す分裂酵母の変異体を単離・解析してきた。本研究では、カルシニューリン経路と機能的に関連する非必須遺伝子を網羅的に同定するために、分裂酵母遺伝子ノックアウト・ライブラリーを用いて、3004遺伝子破壊株をスクリーニングし、72個の遺伝子ノックアウト株がFK506感受性を示すことを確認した。

これら72個の遺伝子は、小胞輸送(16個)、シグナル伝達(10個)、ユビキチン化(8個)、クロマチン・リモデリング(6個)、細胞質分裂(4個)、リボソームタンパク質(3個)、その他の機能既知タンパク質(17個)、機能未知タンパク質(5個)をそれぞれコードしていた。

72個のノックアウト株のうち、25個が液胞融合異常、19個がv-SNAREの局在異常、16個はβグルカン合成酵素を阻害する抗真菌薬ミカファンギンに対する超感受性を示した。以上の結果は、分裂酵母細胞のカルシニューリンが多彩な生理的プロセスに関与し、他の様々なシグナル伝達経路とクロストークしていることを示している。


FK506 (タクロリムス)は、ヒトでも酵母でも結合タンパク質(FKBP12)と結合してカルシニューリン(CN)というタンパク質脱リン酸化酵素活性を抑制します。その結果、ヒトではIL-2などのサイトカインの産生を抑制して細胞性免疫を抑制することで、臓器移植時の拒絶反応を抑制します。心臓、肺、肝臓などの臓器移植に必須の薬物です。

CNは触媒サブユニットと制御サブユニットからなるヘテロダイマー構造を持ちます。哺乳動物のCNの触媒サブユニットは3つの遺伝子、制御サブユニットは2つの遺伝子によってコードされています。一方、分裂酵母では触媒サブユニットPpb1も制御サブユニットCnb1も1つの遺伝子によりコードされています。このように、分裂酵母はCN研究のための最もシンプルなモデル生物です。

分裂酵母のCN遺伝子は、必須遺伝子ではありません。また、上記のようにFK506(タクロリムス)やシクロスポリンなどの免疫抑制薬はCN活性を特異的に抑制します。これらの事から、FK506を培地に加えて生育できない変異体を取得することでCN遺伝子と合成致死を示す遺伝子、即ちCNと重要な細胞機能を分かち合っている遺伝子が同定できると考えました。

もしも、これらの機能やカルシニューリンとの関係がヒトまで保存されていたら、これらの遺伝子は免疫抑制薬の副作用発現に重要だとも考えました。これまでは、1つ1つ突然変異による変異体を単離・解析してきましたが、今回はノックアウトライブラリーを用いて、一気に多くの遺伝子がCNと機能的に関連することがわかりました。関連するメカニズムの多くはまだ不明で、これからの課題です。

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