製薬企業がクスリを売らなくなる日 ~Beyond the Pill~何を売るの?

クスリを売らなくなる日を見据えて [第1回] 産業変化の背景
経営戦略コンサルファームであるアーサー・ディ・リトル(ADL)にて、ヘルスケア/ライフサイエンス産業に対するコンサルティングに従事する増井慶太氏が連載する「製薬企業がクスリを売らなくなる日 ~Beyond the Pill~」という日経デジタルヘルスの1回目の記事です。以下は、連載の主旨と第1回の「産業変化の背景」という記事の抜粋です。


医薬品を取り巻く昨今の外部環境や企業内部の状況の変化から、製薬産業において大きな変化が生まれつつある。“Beyond the Pills”(医薬品を越えて)の掛け声のもと、従来の医薬品の創出・販売というバリューチェーンの枠組みを越えた新たな事業モデルの構築や技術領域への投資を進めている(図表1)。

具体的には、次の3つの外部環境・内部環境の変化が顕在化しており、現行の製薬業界のバリューチェーンや事業モデルに対して大きなインパクトを与えるものと考えられる。

(1)医療財政悪化に伴う薬価の切り下げ
2018年の診療報酬改訂では、-7.5%程度の薬価切り下げが行われる。社会保障費全体に占める薬剤費の支出は2割程度であるが、今後も複数の手段により薬価が切り下げられる(製薬企業にとって)世知辛い傾向は進むものと考えるのが妥当だろう。

(2)創薬ターゲットの枯渇
低分子を中心とした創薬ターゲットが枯渇しており、既存の研究手法の延長線上では、新薬のタネが出づらくなってきている。また、仮に有望な標的があったとしても、製薬企業各社が足並みを揃えて狙う標的となっており、競争環境は激しくなってきている。結果として、薬剤開発に依存した事業構造が成立しづらくなってきており、新規モダリティへの転換や他の新規事業開発の検討の必要が生じている。

(3)収益性の悪化
抗体医薬品を中心とした新規モダリティの割合が増加しており、製造コストが高騰している。新規モダリティへの投資や、希少性疾患への進出やがんの個別化医療の進展は、患者ポピュレーションを細分化することにつながり、薬剤当たりの研究開発費の高騰に一層拍車を掛けている。さらには、旧来型の販売戦略が通用しなくなってきていため、臨床現場寄りのスタッフに対するトレーニングや採用面でのコストアップが避けられなくなってきている。


これら3つの外部環境・内部環境の変化は、増井氏の指摘する通りだと思います。しかし、氏が続いて指摘する「非製薬産業」発の異業種技術、例えば、医療機器と検査/診断技術の進化、医療機器の進化、医療ICT/IoTの進展、ヘルスケア(食品)の進化が「臨床上の強烈なインパクトを予見させる破壊的な技術のイノベーションの萌芽」かどうかは怪しいと思います。

人口減少が予想される日本などの先進国では、ヒトの寿命が生物学的限界に近くなっているのですから、不老不死、あるいは老化を優位に遅らせる技術が具体化しない限り、「医療産業」は増井氏があげられた医療財政悪化の影響をモロに受ける斜陽産業です。「新薬を次々出して儲ける」というビジネスモデルは崩れ始めています。「製薬企業がクスリを売らなくなる日」が来た時、どのようにして製薬企業は生き残っていくのでしょう?日本の企業が心配です。

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