高齢化研究者の増加と定年制度の撤廃が、科学分野における革新的イノベーションの減少を招いている

研究者の高齢化が科学の進歩を止める?1250万人の分析で判明した「破壊的イノベーション」減少の謎
以下は、記事の抜粋です。


1960~2020年に論文を発表した1250万人以上の科学者を分析した結果、研究者の高齢化と定年制の廃止が科学の破壊的イノベーションの減少につながった可能性があるとピッツバーグ大学とシカゴ大学の研究チームがサイエンス誌(5月7日付)で発表した。

「組み合わせ型創造性」と「破壊的革新性」
それによると、科学界では少数の科学者が長期にわたり現役で影響力を振るう一方で、多くの研究者が「使い捨て」でキャリアを終える極端な二極化が進む。下積み時代の長期化、定年制の廃止、これまでのキャリアを重視する資金配分システムは資源をシニア科学者に集中させる。

キャリアが長くなると、これまで結びついていなかったアイデアを繋ぐ「組み合わせ型創造性」は向上するものの、既存のアイデアを新しいもので置き換える「破壊的革新性」は低下する。高齢化はチーム構造、査読制度、政策を通じてイノベーションの方向性を決定づける。

「ノスタルジー効果」と「刷り込み効果」
さらに興味深いのが「刷り込み効果」だ。科学者がキャリア全体を通じて最も頻繁に引用する論文は、その科学者の最初の論文発表の約2年前に出版された論文が多い。

「科学者になった時に存在したものは正常に感じられ、若い頃に登場したものは革命的に感じられ、成熟した後に登場したものは疑問に感じられる」という。

高齢化する科学者は 「革命家」ではなく、 自分の知的ノスタルジーを脅かす新しい概念に対する「門番」に転じていく。高齢科学者は全く新しい概念を取り入れるのではなく、いくつかの既存概念を結びつける傾向を強める。これが「組み合わせ型創造性」につながる。

科学的労働力の高齢化に伴い、ジュニアとシニアが混在するチームが増えたものの、高齢リーダーに率いられる傾向が強まっている。高齢リーダーはメンバー全員が対等に影響を及ぼし合う場合に比べて、チーム全体が引用する論文をより古いものへと押しやってしまう。

科学システム全体に影響を与えた米国大学における定年制の廃止
キャリアを重ねるほど他者の研究を論評・批判する割合は上昇し、逆に自身が批判される割合は低下する。

70歳定年制の廃止が撤廃された1994年以後の米国ではシニア研究者の離職率低下に伴い、引用される論文の古さが英国(2011年まで65歳定年制)に比べて有意に上昇した。

若い研究者を擁する中国やインドはキャッチアップ段階にあることを考慮しても破壊的な論文の割合が多い。対照的に、研究者の高齢化が進む米国や英国では知識の統合と再結合に強みを持つものの「破壊的革新性」の比率は低くなる。

論文や特許の「破壊度スコア」は劇的に低下
ミネソタ大学とアリゾナ大学の研究チームは1945~2010年に発表・出願された4500万件の論文と390万件の特許を分析した結果を23年にネイチャー誌に発表している。既存の研究を「破壊的に変える研究」よりも「統合する研究」を優先する傾向を浮き彫りにした。

科学が破壊的でなくなった理由について「科学者や発明家がより狭い基盤に基づいて研究を行っている」可能性を挙げた。古い研究、自身の研究、多様性の低い研究の引用が破壊的イノベーションを妨げているという。

今回エコノミスト誌(今年5月25日付)は「日米のような高齢化が進んだ労働力人口を抱える国では若い世代が多い中国やインドに比べて革新的な論文の割合は少ない。大国間競争で技術の最先端を目指してしのぎを削る中、若い世代を味方につけることが肝要だ」と説く。

研究資金と昇進システムの多様化
ピッツバーグ大学、シカゴ大学の研究チームは科学の破壊的イノベーションを保つため以下の提案を行っている。

(1)研究資金と研究者の昇進システムの多様化
高齢化のみが最前線の前進を阻んでいるわけではないが、シニアが再結合に秀でる一方で破壊性を失う性質に鑑み、初期キャリアの研究者によるリスクの高いプロジェクトへの資金配分を再バランスする。

(2)定年制と研究者の流動性の再考
定年制の廃止のような制度変更が与える長期的影響を評価し、労働力の適切な新陳代謝を促すインセンティブを設計する。米国におけるSTEM(科学・技術・工学・数学)分野に集中する若い移民科学者の受け入れは高齢化を相殺する一助となっている。

(3)チームデザインの実践
それぞれの研究機関ごとに若手研究者に主宰研究者(PI)や共同責任著者の役割を積極的に付与し、世代間で対等な「フラットな共同研究」を奨励する。

何に資金がつき、何が出版され、何が引用されるのかというメカニズムを通じて研究者個々の高齢化が科学全体を硬直化させる前に、制度的な介入を行うことが経験という統合的な強みを活かしつつ常に「破壊」に対して科学を開かれた状態に保つ道だという。


元記事のタイトルは、”Aging and the narrowing of scientific innovation…Aging researchers and the removal of retirement policies yield decreased disruptive innovation in science(高齢化と科学技術革新の縮小……高齢化研究者の増加と定年制度の撤廃が、科学分野における革新的イノベーションの減少を招いている)”です(論文をみる)。

原文をみると、「破壊的」というのは”disruptive”の訳でした。「革新的」の方が良いと思います。

私が研究をしている時はちょうど日本でもアメリカの真似をして、定年を超えた「卓越した」研究者が大きな研究費を得て研究を続けることができる制度が始まりました。当然、そのような科学者達は学会のボスとして君臨し、巨大な科学研究費が彼らに集中しました。残念ながら、このような状態は今も続いているのではないでしょうか?絶対権力は絶対腐敗します。

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