風邪やインフルエンザの治療に「抗生物質」は必要?
以下は、記事の抜粋です。
風邪やインフルエンザは、「ウイルス」による病気です。「細菌」を治療するための薬である抗菌薬(いわゆる抗生物質)はウイルスには無効であり、通常必要はありません。「細菌」の感染が明確に疑われる場合にのみ使う薬です。
抗菌薬の投与を考える場合は、風邪やインフルエンザの後に、細菌による肺炎、中耳炎など、二次的な細菌の感染が疑われる場合や、重症でインフルエンザと細菌感染の見分けがつきにくい、あるいは両者の感染を考えなくてはいけない場合などです。
しかし、風邪に中耳炎などの細菌感染を合併するケースもあるため、「念のため」に本来無効な抗菌薬が処方されてきた歴史があります。また、風邪にはそもそも治癒を早める薬がなく、「治療」として処方するのにちょうどよかったという面もあるでしょう。このため、今なお「風邪に抗菌薬」というイメージがあるのです。風邪やインフルエンザに対して抗菌薬が不要に処方されている現状は今も続いており、これが抗菌薬の効きにくい細菌の発生や不要な副作用を生み出す一因になっています。
以上は、確かに正しい答えですが、これですべての患者さんが納得するとは思えません。患者さんに強く迫られて根負けしそうです。図は2021年の記事からですが、今でもそれほど変わらないと思います。もう一つのより強力そうな記事からの説明を以下に使いしておきます。
デメリットをきちんと説明していますか?
患者さんのなかには、何か目に見える形で治療してもらわないと満足できない、という方が一定数います。「治療の必要なし。経過観察可能」と判断されると、「医師は何もしてくれなかった」と思ってしまうのです。
なかには、今回のケースのように「風邪には抗菌薬が効く」という間違った医学知識を自らの体験から信じている患者さんも多くいます。こういう方に、無治療経過観察が望ましいことはなかなか理解してもらえません。
今回の唐廻先生のように、早々と患者さんの希望どおりに対応してしまうほうが医師にとっては楽です。しかし、医学的に不要な治療を患者さんの希望に合わせて行ってしまうと、患者さんに副作用リスクだけを与えることになります。また、必要のない治療を行うことにより、かえって病態が修飾されるので、精査が必要なまれな病気が隠れていたとき、その発見が遅れるリスクもあるでしょう。もちろん、不要な医療行為は医療経済的な観点からも望ましくありません。唐廻先生のように安易に処方せず、まずは治療が不要であることをきちんと説明することが大切です。
一方で、十分な説明なしに処方を断ってしまうのも問題です。満足できなかった患者さんは、自分が望む治療を提供してくれるところを探し、結局別の病院を受診するかもしれないからです。これは、患者さんにとって有益とはいえません。では、治療が不要であることをどのように伝えればよいでしょうか?
「なぜ処方できないのか」を明確に伝えよう
まず、医学的根拠を可能な限りわかりやすく伝えるよう努力すべきです。たとえば今回の抗菌薬に関する説明であれば、まず、
風邪の原因はほとんどがウイルス感染である。抗菌薬は細菌をやっつける薬であって、ウイルスをやっつける薬ではないので、風邪には効果がないこと
抗菌薬には吐き気や下痢、アレルギーのようなリスクがあり、効果が期待できないうえに副作用のリスクだけを負うのは割に合わないことを説明します。
あくまでも個人的な意見“ではない”こともポイント
次に、「治療は必要ない」という結論が「個人の主観的判断」によって得られたものではなく、ガイドライン上の記載や学会・公的機関の見解、過去の大規模な臨床試験のデータなど、客観的なエビデンスに基づくものであることを伝えるのがよいでしょう。
風邪に抗菌薬を使用することは、メリットよりデメリットのほうが圧倒的に大きいため、厚生労働省が発行した「抗微生物薬適正使用の手引き」に「感冒に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する」と明記されていることをかいつまんで説明する、という形がおすすめです。
もっと簡単に説明したい場合は、「近年は○○をするのが一般的です」「〇〇されています」「多くの医師が○○しています」のように、自分の主観“以外”のところに拠り所があるというニュアンスを伝えると効果的です。
かかりつけの患者さんなど、長年の付き合いで信頼関係ができている場合とは違って、患者さんが医師と初めて会うときは「目の前の医師を本当に信頼していいだろうか」と不安になるものです。そのため、客観的な知見を拠り所にしたほうが、患者さんは安心する可能性が高いはずです。こうした根拠をわかりやすく説明できるよう、準備しておきましょう。
もちろん、風邪から肺炎に発展するなど、本当に抗菌薬が必要な病態に発展する可能性はあります。こうしたケースで、患者さんが「抗菌薬を使用しなかったことが原因ではないか」と疑うことのないよう、今後の見通しや再受診のタイミングを伝えておくことも大切です。
点滴やうがい薬も誤解が多い
風邪は誰もが何度もかかる病気なので、「こういう風に治したい」という強い希望をもつ患者さんは多いと感じます。たとえば、「風邪は点滴で治る」と思い込んでいる人もいますし、ヨード液(商品名:イソジンなど)のうがい薬が風邪予防につながると信じている人もいます。
患者さんにこうした希望がある場合、完全に否定するのではなく、それぞれのデメリットや拠り所となるエビデンスを説明したうえで判断してもらいます。
点滴であれば、デメリットとして末梢ルート確保に伴う感染リスクや神経障害などのリスク、長時間病院に滞在することによる体調悪化のリスク、補液に伴う循環器系への負担をきちんと説明する必要があります。
ヨード液については、「ヨード液よりも水うがいのほうが風邪予防や症状の緩和につながる」といった客観的なエビデンスがあることを説明するとよいでしょう。
以下は、具体的な説明の例です。
風邪の原因はほとんどが細菌ではなくウイルスです。抗生物質は細菌をやっつける薬なので、ウイルスをやっつけることはできません※1。風邪に効果は期待できないうえに副作用のリスクもある※2ので、今回は使わないほうがいいと思います。風邪に抗生物質を希望する患者さんが多いので、厚労省からも「風邪に対して抗生物質を使わないことを推奨する」という通達が出ているんですよ※3。抗生物質なしで一旦経過をみませんか※4。もちろん症状が悪化したときは風邪とは異なる別の病気を併発している可能性もありますので、そのときは必ずもう一度受診してくださいね。
※1:ここを誤解している患者さんは多い。
※2:あくまで患者さんの不利益になることを強調する。
※3:客観的な意見を伝えると納得してもらいやすい。
※4:一度猶予をもらうのも手。
風邪やインフルエンザに対して、特に質問も説明もなく抗生物質を処方する医者はヤブです。

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