ロバート・F・ケネディ・ジュニア:1年間の失敗

Lancet誌が怒りあらわに、ケネディ氏に向けたEditorialを掲載
以下は、記事の抜粋です。


米国の無茶苦茶ぶりはイラン攻撃のほかでも進行中である。何かといえば、昨年2月に保健福祉省長官に就任したロバート・ケネディ・ジュニア氏のことである。

過去にもケネディ氏によるLancet誌、NEJM誌、JAMA誌の3誌の腐敗呼ばわり、米国疾病予防管理センター(CDC)が推奨する小児向けワクチン接種スケジュールの大幅縮小、CDCにワクチン政策の助言・提案を行う外部専門家機関・ACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)の委員全員解任とワクチン懐疑派委員への入れ替え、mRNAワクチン開発への研究支援の縮小、自分の主張と反する科学的研究論文を掲載したジャーナルへの論文撤回要請などを取り上げてきた。

ケネディ氏の長官就任1年を経た2026年2月28日付のLancet誌407巻では、表紙にデカデカと“The destruction that Kennedy has wrought in 1 year might take generations to repair, and there is little hope for US health and science while he remains at the helm.”(ケネディがこの1年で引き起こした破壊は、修復するのに何世代もかかるかもしれない。そして彼が指揮を執り続ける限り、米国の保健と科学に希望はほとんどない)と謳い、冒頭では「Robert Kennedy Jr:1year failure(ロバート・ケネディ・ジュニア:1年間の失敗)」と題したEditorialが掲載された)。

詳細は省くが、「ジャンクサイエンスや異端の信念が正当な説明もなく重視されている」「誤情報を拡散し、国の最も弱い立場にある人々を犠牲にして政治的な政策を推進し続けている」「議会から自身の決定について説明を求められても、彼は逃げ腰で攻撃的な態度をとってきた」と徹底的にこき下ろしている。

危険な結果を導き出す愚策
前述のようにケネディ氏は、小児向けワクチン接種スケジュールの大幅縮小により、従来は小児全員に推奨されていたインフルエンザ、B型肝炎、A型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、新型コロナウイルスの6種類のワクチンを推奨から外し、「高リスク群のみ」または「医師と個別に相談して決定」という枠組みに変更した。

また、2025年10月、ケネディ氏が刷新したACIPは、「MMRV(麻疹・おたふくかぜ・風疹・水痘)ワクチン」の4歳未満への定期接種の推奨を取り消した。これにより州レベルでは、フロリダ州が接種義務解除に踏み切ったほか、低所得者層向けの無料接種プログラム(VFC)からMMRVワクチンが外れ、接種のハードルが上がった。そしてこれらの影響と思われる現実は深刻である。

感染症の流行で結果は明確
CDCによると、米国での2025年の麻疹感染報告は2,283例、2026年(3月6日時点)は1,281例で、今年はわずか3ヵ月で前年の半数超に達している。2024年が285例なので昨年は前年比で9倍弱、感染報告が増加したことになる。

もちろんMMRVワクチンの非推奨は2025年秋のことなので、これが同年の麻疹患者増加の主要な原因とまでは言えない。しかし、2026年の急速な感染報告数の立ち上がりを見る限り、ケネディ氏の政策の影響は徐々に顕在化していると言わざるを得ない。

しかも、ケネディ氏はこうした危機的な状況に対して何も具体的な対策を講じてはおらず、保健福祉省の公式声明でもコメントしていない。そもそも、ケネディ氏は以前からワクチン懐疑派であることは有名だが、昨年3月のFOX Newsでのインタビュー2)では麻疹ワクチンに関し、「ワクチンの効果は年間約4.5%低下する」「麻疹ワクチン接種が毎年死者を出している」と科学的根拠の乏しい発言をしている。

ちなみにこの当時、麻疹が流行していたテキサス州では、米国では10年ぶりとなる麻疹による死者が発生し、2025年全体で麻疹による死者は3例が確認され、いずれもワクチン未接種者だったことがわかっている。この数字から算出される2025年の米国の麻疹感染者の死亡率は0.1%強。一般に先進国の麻疹感染者の死亡率は0.01%程度と言われるが、それより1桁高い数字だ。このままでは2026年はもっと悲惨なことになるかもしれない。

いずれにせよ国外では戦争、国内ではパンデミックというまさに内憂外患状態が今の米国である。ボーダレス化が一層加速する現在の世界で、この禍に日本が無縁でいられるだろうか?


以下は、「Robert Kennedy Jr:1year failure(ロバート・ケネディ・ジュニア:1年間の失敗)」からの抜粋の日本語訳です。


ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、米国保健福祉省(HHS)長官としての最初の演説で、信頼回復のための計画を提示した。また、ケネディ氏が演説したHHS職員は、壊滅的な大量解雇と予算削減に直面していた。ケネディ氏は、自身の野望に抵抗する職員の運命について率直に語る一方、米国を再び健康な国にするために協力する意思のあるすべての人々と、オープンで誠実な対話を行うことを約束した。ケネディ氏は、自身の指名を承認した上院委員会に対し、協力的で受容的な関係を約束し、また、信任を得たと主張する国民に対しては、隠された利益相反、秘密主義、営利主義のない、偏りのない科学の新時代を約束した。徹底的な透明性、最高水準の科学、倫理、思いやり、能力、そして誇りが、米国が必要とし、当然受けるべき、HHSの揺るぎない権威を回復させるだろうと話した。政治家は約束を破ることで知られているが、就任1年を迎えたケネディ氏の実績は、ほとんどの基準、特に彼自身の基準から見ても失敗だった。

信頼と透明性についての演説から10日後、HHSは54年間続いてきた、新たな規則や規制に関するパブリックコメントの募集という方針を撤回し、彼が奉仕を誓った多くの利害関係者の声を封じ込めた。ケネディは顧問や専門家を一方的に解任し、有料メディアで政策変更を伝え、内部告発者を解雇し、ガイドラインや勧告の改訂を監督したが、これは数十年にわたる確立された科学に反しており、しばしば彼がかつて非難していた業界に利益をもたらした。ケネディの指導の下、国立衛生研究所(NIH)は大気汚染の健康影響を研究するプログラムを閉鎖し、HHSはアルコール摂取と癌を結びつける報告書を隠蔽し、食品医薬品局(FDA)は自閉症の治療薬として偽って販売された製品(生乳や二酸化塩素など)の摂取による潜在的な害についての警告を取り下げた。 CDCにおける彼の改革により、26州がワクチン政策に関する公式指針を拒否する事態に至り、12月にはCDCはギニアビサウでのワクチン研究実施のために160万ドルの助成金を一方的に交付したが、その研究計画は数千人のワクチン未接種の子供たちをB型肝炎に感染させる危険性があったため、倫理的な懸念が数多く生じ、悪名高いタスキーギ梅毒未治療研究と比較されるほどだった。

ケネディ長官率いる保健福祉省(HHS)は、質の低い科学研究に多額の資金を投入する悪癖がある。トランプ政権による研究資金と人員の削減に伴い、優先順位に有害な変化が生じている。mRNAワクチンから糖尿病、認知症に至るまで、最先端の発見や臨床研究は重要な資源を奪われる一方で、疑似科学や非主流的な見解が正当な説明もなく重視されている。ケネディ長官の指導の下、国立衛生研究所(NIH)、食品医薬品局(FDA)、疾病対策センター(CDC)における政治化は、米国の科学とイノベーションの未来を危うくし、今日この国を安全に保つ公衆衛生事業を窒息させている。
連邦政府が薬物過剰摂取、妊産婦死亡、食料安全保障といった健康上の懸念事項を監視・報告するために維持してきた仕組みは、それらに頼る医師や科学者と同様に苦境に立たされている。何千ものデータセットがもはや一般に公開されておらず、アメリカ国民、ひいては世界は将来の危機への対応に備えられていない。そして危機は迫っている。2025年11月には、ワシントン州でH5N5型鳥インフルエンザによる初のヒト感染(および死亡)が記録された。2025年に米国で13人の死者を出した百日咳は、国内で広がり続けている。そして昨年1月に始まった麻疹の流行は、現在、米国とメキシコの麻疹撲滅の地位を脅かしている。

こうした状況にもかかわらず、ケネディ氏は誤った情報を拡散し続け、国の最も弱い立場にある人々を犠牲にして政治的な政策を推進してきた。議会からその決定について説明を求められると、彼は曖昧な態度を取り、攻撃的な態度をとってきた。ケネディ氏がわずか1年で引き起こした破壊は、修復に何世代もかかるかもしれない。彼が政権を握っている限り、米国の保健と科学に希望はほとんどない。彼の辞任を求める声は今や数千に上る。議会は監視の義務を果たし、ケネディ氏の実績について責任を追及しなければならない。さもなければ、トランプ大統領が彼に「保健政策を好き勝手にさせる」という決定を支持した責任を受け入れることになるだろう。

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