国を滅ぼしかねない(?)ベンゾジアゼピン系、その減らし方
以下は、記事の抜粋です。
ビリー・アイリッシュにXannyという曲があるが、これはベンゾジアゼピン系抗不安薬(米国での商品名はXanaxなど)の怖さを歌っている。プリンスの命をも奪ってしまったオピオイドの蔓延は、米国人の平均寿命さえも低下させている。オピオイドほどではないにせよ、同時に使用されることも多いベンゾジアゼピン系の蔓延もまた米国の薬物依存の深刻さを表していると言えよう。古くからあるが、いまだに最先端の話題である。
本論文は、睡眠薬として使われているベンゾジアゼピン系薬剤をやめるためのさまざまな方法の効果を比較し、メタ解析したものだ。要するに「ベンゾジアゼピン系薬剤の処方はなるべく避けるべきなのに処方されている。じゃあ、やめるための方法の優劣をここらでまとめておこうじゃないか」ということだ。詳しくない人には、「なんでダメなものを処方するのだ?」という疑問があると思うので説明しよう。
まず、ベンゾジアゼピン系薬剤とはかつては俗にマイナートランキライザーと呼ばれ、睡眠薬の定番であった。ただ、ベンゾジアゼピン系は薬効が複数あり、ややこしいのだ。薬効は、(1)眠らせる(2)不安をとる(3)痙攣を止める(4)筋弛緩を起こす、という複数の効果を持つ。このうち(1)が強いものが睡眠薬として使われる。(2)の不安をとるものとしてはエチゾラム(商品名:デパスなど)が代表的であり、(3)の痙攣を止めるものとしてはジアゼパム(商品名:セルシンなど)が代表的である。ただし(4)が起きてしまうので、肩こりや腰痛にも効いてしまう。過剰に投与すると、あるいは高齢者では、昼間に薬効が残ってふらつくこともある。夜間にトイレに行き、階段から落ちるなんてことも起きる。ややこしいうえに危ないのである。
さらに耐性が生じるので、基本的にはだんだん効かなくなる。効かなくなると増やすしかない。そうするとやはりふらついたり、日中もぼんやりしたりする。
現代では新たに処方されることはあまりないし、1剤にとどめるべきである。ベンゾジアゼピン系を2剤出していたら、よほどの理由があるか、ダメな医者かのどちらかである。
じゃあ何で処方するのだ、と思うかもしれないが、2つの理由がある。
第1の理由は、患者さんにとっては良い薬と認識されていることがある。切れ味がよいのである。長年ベンゾジアゼピン系てんこ盛りでよく寝ている(と自覚している)患者さんに、「危ないので減薬しましょう」などと言っても、「なんだ、全然眠れなくなったぞ。四の五の言わずにさっさと出せよ!」などとすごまれる、なんてことも起きる。
第2の理由は、忙しいかかりつけ医が、「よく効くなあ、患者さんも喜んでいるし」と綿々と処方していることも多かった。
というわけで、今ではさすがに新たに処方されることはあまりないが、ずっとのんでいる人や高齢者に対して、どうやって減らすかというのは臨床的には大問題である。
本論文の結果であるが、徐々に減らす、医師に対する教育、医師と患者双方への教育、認知行動療法、マインドフルネスは残念ながら効果はなさそうである。患者さんへの教育、薬剤師主導の減薬(薬局でパンフレットを見せるなど)、処方検討会議(医師と薬剤師など)は低いながら効果があるようだ。
現代では、睡眠薬の第1選択はもはやレンボレキサントなどのオレキシン受容体拮抗薬に移っている。睡眠薬の世界では、もう勝負あった感がある。
ただし問題は抗不安薬としての使用である。生きづらさへの短絡的な解決になっているような場合はなかなかやめられず、依存症になっている事例も多い。このようなケースは単なる睡眠薬のように一筋縄ではいかないことは最後に強調しておこう。
元論文のタイトルは、”Comparative effectiveness of interventions to facilitate deprescription of benzodiazepines and other sedative hypnotics: systematic review and meta-analysis(ベンゾジアゼピンおよびその他の鎮静催眠薬の処方を容易にするための介入の比較有効性:系統的レビューおよびメタ分析)”です(論文をみる)。
この解説や元論文をみると、厚労省の出しているマニュアルに書かれている「(7) ベンゾジアゼピン受容体作動薬依存への対処法」も効果はなさそうです。
現在でも緩い規制はありますが、不適切な投与を防げているとはいえないので、ベンゾジアゼピン依存を作らないためには、医師が気軽に処方したくてもできない、あるいは患者が飲みたくても飲めないような法的・行政的規制が必要かもしれません。



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