交戦状態のイスラエルとイランの「食料自給率」から見えてくる意外な事実
以下は、記事の抜粋です(下線はブログ著者による)。
イランとイスラエルの紛争が拡大し、もはや全面戦争と言ってもよい状態にある。まさに非常時である。そんな両国の食料供給はどうなっているのであろうか。両国の食料供給を見ることは、わが国の食料安全保障と食料自給率を議論する際に多いに参考になると思う。
イランの主食は小麦である。一方イスラエルの食生活は欧米型であり、主食という概念はない。ただ小麦はパンなどにしてそれなりに食べている。
イランの小麦自給率は100%になる年もあるが、60%程度まで下がる年もある。生産量が減少した年は輸入によって補っている。小麦はイランだけでなく米国やオーストラリアでも生産が安定しない。豊凶の差が著しい。イスラエルの小麦自給率は60%から80%の間を変動している。イスラエルも凶作だった年には、より多くの小麦を輸入している。
国土と人口の関係について見てみよう。イランは1haの農地で5.7人を扶養している。イスラエルは22.4人。ちなみに日本は30.7人である。イランの国土面積は日本の4.4倍もあり、人口が約9000万人と日本より少ないことから、努力すれば食料自給が可能である。
一方イスラエルは日本の四国とほぼ同じ面積に約900万人が住んでおり、食料の自給は難しい。ちなみに四国の人口は369万人。イスラエルは人口密度の高い国である。
食料自給を考える上で、イランはイスラエルより圧倒的に有利な状況にある。それにもかかわらず小麦を完全自給していない。不作の年は輸入している。
世界で小麦を最も多く輸出している国はロシアで年間3100万トン、それにオーストラリアの2900万トン、カナダの2500万トン、米国の1700万トン、ウクライナの1600万トン、フランスの1300万トンが続く(FAO:2023)。小麦の輸出国は主に先進国である。
イランはロシアから253万トン、UAEから113万トン、その他の11カ国から339万トンを輸入している(2021)。一方、イスラエルはロシアから80万トン、その他の23カ国から93万トンを輸入している。両国共にロシアからの輸入量が多いが、その他の国からも輸入しており、輸入先は分散している。
日本語には主食という言葉があるが、欧米には主食という概念がない。前述したようにイスラエルでも同様に主食の概念はない。イスラエルの食生活で小麦と並んで重要な食材があるとすれば、肉である。
なお、イランとイスラエルの食肉生産の8割は鶏肉である。牛肉と羊肉も生産されているが、豚肉はほとんど生産されていない。これはイスラム教もユダヤ教も豚肉を食すことを禁じているためである。
食肉を生産するには飼料が必要になる。伝統的に大麦やライ麦が飼料として使われてきたが、現在ではトウモロコシが主流になっている。イスラエルの食料供給を考える上では、トウモロコシや大麦を含めた穀物全体の自給率が重要になる。
イラン、イスラエル共に穀物自給率は時間とともに低下している。2022年の自給率はイランが53%、イスラエルは39%に過ぎなかった。計算の方法は異なるが、イスラエルの穀物自給率は日本のカロリーベースの食料自給率とほぼ同じ水準にある。
イランとイスラエルの食料自給率のあり方はわが国によく似ている。小麦の自給率は比較的高いが、食肉生産に必要な飼料の自給率は低い。
イスラエルと日本は農地が少ないために飼料を自給することは難しい。だがイランは広い農地を有するために、飼料を自給しようと思えば自給できる。しかし安い飼料を輸入できるために、無理に自給しようとはしていない。
食料自給率は本当に上げるべきなのか
イランは米国を中心とした西側から経済封鎖を受けており、食料についても安全保障を強く意識しなければならない立場にある。だが、そのイランでも食料自給率は決して高くない。また常に周辺と戦火を交えているイスラエルでも食料自給率は低い状態である。そんな両国は現在戦時下にあるが、食料の供給になんの問題も生じていない。両国が食料危機に陥りそうだというニュースを聞くことはない。
現代社会では、食料を武器に相手に屈服を迫ることはできない。その理由は、ロシアだけでなく多くの先進国が食料輸出国になっているからだ。非常時でも食料は輸入できる。食料貿易では輸出国ではなく輸入国の方が立場が強い。
わが国において食料安全保障や食料自給率が議論されると、保守系の人々も、そして不思議なことにグローバリストであるはずのリベラル系の人々までもが、食料自給率を上げるべきと主張することが多い。だが、食料自給率の向上を主張をする人々は観念論の世界に生きており、広く世界を見ることはない。これは島国に生きる日本人の欠点と言ってよい。
イランとイスラエルの戦争は、食料自給率をどう考えるべきかについて、我々日本人に極めて貴重な判断材料を提供してくれている。
小麦とは違ってコメを輸出している国の多くはいわゆる「先進国」ではないので、まったく同じ議論が日本にも当てはまるかどうかは疑問かもしれませんが、非常時にはコメにこだわらなくても良いと考えれば、むりやり食料自給率を上げる必要はないと思います。下の図は少し古いですが、イスラエルは食料自給率をまったく気にせずに戦争をしていることが良くわかります。
コメント
日本の場合は海に囲まれてるから、友好国からの輸入もできなくなるリスクがあるからでしょ?
石油も食糧も、よそから買えるから大丈夫だい!自給率0%でもなーんにも怖くないね!…は、頭パーのノーガード自殺戦法かと。