理系研究者8人に1人が雇い止め 無給で仕事、あっさり解雇の惨状
以下は、記事の抜粋です。
大学や研究機関で長期間研究したのに10年を前に雇い止めされる――。学術団体が理系の研究者2465人にアンケート調査したところ、およそ8人に1人がこのような事態に直面していた。一定の期間を空けると通算契約期間がリセットされる「クーリング」を強いられた研究者が周囲にいたと証言する人も3割近くに上った。雇い止めやクーリングで研究現場での無期転換ルールが骨抜きにされている実態が浮き彫りになった。
2013年に施行した改正労働契約法では、一般の労働者について有期雇用の通算契約年数が5年を超えると無期雇用への転換を申し込め、雇用主は拒否できないと定めている。研究者については、研究活動が長期に及ぶため、5年ではなく特例で10年に設定され、23年4月に節目の10年を迎えた。
アンケート調査は、日本神経科学学会将来計画委員会と日本学術会議基礎医学委員会神経科学分科会などが合同で今年9月に実施。日本脳科学関連学会連合や生物科学学会連合、日本地球惑星科学連合などが協力し、大学や研究機関で働く教員や研究員、学生らが回答した。
まず改正労契法が研究者の雇用環境に与えた影響を調査した。「悪い方向に影響を受けた」と答えたのは55・7%に達し、「特に影響を受けていない」(34%)、「良い方向に影響を受けた」(3・3%)を上回った。
本人もしくは周囲に雇い止めされる予定の人がいるか尋ねたところ、約44%が「いる」と回答。「周囲にいる」と答えたのは31・6%で、雇い止めされる本人は12・3%に上った。「いない」か「分からない」は53・3%だった。
この記事は、宮川氏が「研究関係者の5年/10年雇い止め関連のアンケート結果を紹介していただきました。公的機関で、「クーリング期間中に、無給で仕事をしている人をみた」、「クーリング中はボランティアとして研究に参加をお願いしている」とか、いくらなんでもまずすぎでしょう。」と紹介されているアンケート結果に基づいています。
10年前に懸念されていた問題が現実になっています。この制度がこのまま続けば、多くの若手の研究者が目先の結果しか追わない状況が続き、日本の科学研究レベルはどんどん落ちていくと思います。
ところが、「文科省の人材委員会のワーキンググループでは、「現段階においては本制度が概ね適切に運用され、研究者・教員等の雇用の安定性の確保に一定の役割を果たしていると評価することができ、直ちに本制度を見直す必要はない」との方向での議論が進められているそうです(記事をみる)。ぜひ、文科省の方々にはこのアンケート結果をみて欲しいです。以下は、その「制度の改善に関する意見」からの抜粋です。
回答の抜粋
●「科研費雇用の身分でも、所属機関内外からの評価を受ける権利を与え、その評価次第で無期雇用への転換が可能になるようなシステムをいただきたい。」
● 「無期転換ルールが、実質、雇用期間上限ルールになっている。無い方がまだ良い。」
●「”PI を目指す研究者は、そもそも、在籍年月だけを条件として無期転換という概念にそぐわないと思う。tenure track でも、tenure への変換には業績の評価が必要だ。PI を目指すけど、PI にはまだ応募できない、まだ PI の職が見つからずに 10 年経った方を PI を目指す研究者の枠で雇い続けること自体に問題を感じる。PI を目指さない研究者としてもポジション(e.g., 学術専門職員)、non-academia といった別な pathway を“」
●「雇用の安定のために作られた法律が雇用を不安定化させている現状を鑑みると、法律的に根本的な改定が早急に必要である。私が所属する機関(国立大学)では、事務系職員に対しては 5 年で無期転換が可能で、そうすれば、雇用主の研究室で雇用が継続できなくなっても、部局や機関内の別研究室での雇用可能かどうかマッチングが行われ、それが成立すれば、雇用が継続される。これは事務系職員はどの研究室でも類似した職務内容であることによる。一方、研究職の場合は、雇用を継続することは、その研究員の専門とする研究領域のマッチングが必要であり、さらにそれは部局や専攻における将来計画と必ずしもマッチングしないことが多いため、継続的な雇用ができない現状がある。そもそも、このような事態が生じるのは、大学への研究費が先細りになり、常勤職でさえも資金不足で新規に雇用できない状況に陥っていることが遠因となっていると私は考えている。10 年を期限とする研究職の雇い止めは、雇用している研究室にとって損失しかもたらさない。」
●「そもそも研究者のキャリアパスのグランドデザインについてどのように考えているのか,そしてそのようにさせる圧力として適切なルールをどのようなものを作るのかという部分が問題だと思う。現在雇い止めが起きていないのだとしても,金銭的な理由から大学が雇い止めをできてしまい,またそのようにする金銭的圧力がかかっていることが問題であると思う。このような雇い止めが実際に起
こった場合,大学側での技術の後継,また個人のキャリアパスに悪影響を与えることは間違いないものであり,適切なルールづくりが求められる。」
●「クーリングオフ以外で雇用を継続できるシステムを作ってほしい。特にアルバイト勤務や任期付勤務で良い人とそうでない人(無期雇用を目指す人)の双方に充分に配慮できるシステムが必要。あとは、無期雇用になった人に対する公正な人事評価システムの指針づくりも必要と思われます(特に研究面での評価)。財源が限られている中で如何に公正な競争環境を作り上げるかが重要と思います。任期なしになった途端に仕事をしなくなる人や何が評価されて任期なしになったのかわからない輩が多すぎる。」
●「雇い止めの議論をアカデミア関係の研究者にそのまま適用するのは、日本の科学力低下につながると思う。博士号取得後に 10 年の雇い止めにあうということは、少なくとも 38 才になっているはずである。研究の才が無い研究者に、利潤追求団体ではないアカデミアにおいて同一研究機関で緊張感なくズルズルと研究させるのは良くないと思う。他の機関・他の業界への転職を促す意味でも、任期付き研究員の運用をむしろしっかりと行うべきである。理研などの有力研究機関が無期転換に応じた結果、研究者の流動性がより一層下がっていると思う。任期が無くなれば、あえて次のポスト、上の職階を目指さないだろう。少子化が進む中で人材獲得競争は厳しくなっていき、囲い込みが進むと見込まれるが、レベル維持のために日本中の大学・公的研究機関で足並みを揃えて任期あり研究員の運用をすべきである。少子化がより一層進むと、現在の公募ベースでの採用は、やがて行き詰まると思う。有期雇用期間の研究員の情報・評価を機関横断的に共有し、日本中の大学・公的機関から採用のオファーを出せるような仕組みを構築すべきである。また、彼らのライフプランを機関横断的にサポートする取り組みが重要になると思う。何かしらのセーフティーネットを構築し、雇い止めにあっても人生が破綻しないような制度設計が望まれる。」
● 「そもそも研究者は博士号取得以降、ポジション取得やそれにともなう異動などもあり、結婚、子供作りの年齢が社会一般よりも遅くなることが多いと思います。任期付きポジションの任期に産休・育休も含まれてしまうと、任期内で成果も出せねばならないため、任期内に積極的に産休・育休取得しようという方向にはなりません(取得しても短い期間になってしまうかと思います)。その結果として、若手人材からみると、大学や研究機関での研究者という職業が、ライフワークバランスやウェルビーイングの観点から、他業種に比べて魅力のないものになってしまい、最終的にこれは博士課程進学者減少、日本の研究力低下にも繋がってしまっていると思います。また少子高齢化、晩婚化、人口減少が深刻な問題となっている現在の日本において、任期期間に産休・育休はカウントしないなど
の対応は、若手研究者人材の確保・育成という意味でも重要と思っています。」
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