キノロン系抗生物質耐性の進化を抑制する変異原性SOS応答阻害剤の開発

耐性菌阻止のみならず耐性を破りさえする化合物を発見
以下は、記事の抜粋です。


細菌の抗菌薬に対する耐性を防ぎ、さらには耐性をすでに獲得した細菌への抗菌薬の効果をも復活させうる化合物をオックスフォード大学のチームが生み出しました。

薬剤耐性菌が世界で増えていることは、人類の健康や発展を脅かす一大事の1つです。よくある感染症の多くがますます治療困難になっており、薬剤耐性菌を直接の原因として年間127万例が死亡しています。新たな抗菌薬の開発なしではそれら薬剤耐性菌を発端とする死亡例は今後増加の一途をたどるとみられています。

細菌が抗菌薬への耐性を獲得する仕組みの1つは、それら細菌の遺伝配列に新たな変異が生じることです。フルオロキノロンなどのキノロン系の抗菌薬は細菌DNAを傷つけることで細菌を死なせます。

DNAが傷つけられた細菌はその傷を修復して変異を増やすSOS反応と呼ばれる経路を発動します。SOS反応は酵素複合体AddABやRecBCDを皮切りに始まります。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を用いた研究によると、AddABは感染、変異を増やすDNA修復、薬剤耐性に携わります。配列がわかっている細菌のほとんど(約95%)がAddABかRecBCDのいずれかを保有しており、AddABやRecBCDの阻害薬は細菌全般に広く有効そうです。また、都合がよいことに哺乳類にRecBCDやAddABに似た相同配列は見つかっておらず、それらの阻害薬のヒトへの影響は少なくて済みそうです。

AddAB/RecBCD阻害薬の報告はすでにいくつかあり、2019年に発見が報告されたIMP-1700という名称の化合物はその1つで、MRSAのSOS反応をいくらか阻害することが確認されています。

オックスフォード大学のチームはIMP-1700の加工品一揃いを作り、フルオロキノロン抗菌薬であるシプロフロキサシンと一緒にMRSAにそれらを投与して効果を検討しました。その結果、DNA損傷を促進しつつシプロフロキサシン耐性出現を阻害する化合物OXF-077が見つかりました。

シプロフロキサシンやその他の抗菌薬とOXF-077を組み合わせると、それらの抗菌薬はより少ない量でMRSAの増殖を阻害できました。また、シプロフロキサシンとOXF-077の組み合わせは耐性出現を有意に抑制し、SOS反応の阻害薬で細菌の薬剤耐性を抑制しうることが初めて証明されました。

OXF-077は耐性抑制にとどまらず、耐性をすでに獲得してしまっている細菌への抗菌薬の効果を復活させる役割もあります。シプロフロキサシンの耐性を獲得した細菌にOXF-077と共にシプロフロキサシンを与えたところ、シプロフロキサシンの効果が非耐性細菌への効果と同程度に回復しました。


元論文のタイトルは、”Development of an inhibitor of the mutagenic SOS response that suppresses the evolution of quinolone antibiotic resistance(キノロン系抗生物質耐性の進化を抑制する変異原性SOS応答阻害剤の開発)”です(論文をみる)。

オックスフォード大学では「細菌の抗生物質耐性進化を抑制する新しい分子を発見」という記事で論文を紹介しています(記事をみる)。

シプロフロキサシンは日本では「ニューキノロン系」に分類されています。タリビット®(オフロキサシン)やクラビット®(レボフロキサシン)など日本でも多く使われており、従って耐性菌も多く出現しているニューキノロン系の薬です。

記事にも書かれていますが、薬剤耐性は大きな問題で、新薬の開発スピードよりも耐性菌の出現のスピードの方が速いと言われているので、これは大きな進歩かもしれません。

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