” インフル並み”になりつつあるコロナとの付き合い方

感染症のスペシャリスト・岩田健太郎先生に聞く、” インフル並み”になりつつあるコロナとの付き合い方
現時点では、ベストの「コロナとの付き合い方」だと思います。あまり削るところがないので、ほぼ全文の転載になります。


「第8波」のピークがいっこうに見通せない中で迎える行動制限なしの年末年始、われわれはコロナのリスクをどう考えるべきなのか……?

コロナにかかる意味が大きく変化してきた
――「第8波」による一日当たりの新規感染者数は全国で10万人を超え続けていますが、現在の感染状況をどのように見ていますか?

岩田 僕自身はあまり深刻にとらえていません。それはコロナの問題を感染者数だけで評価しづらくなっているからで、オミクロン株が流行の主体になって以降、コロナにかかることの意味が大きく変化してきていると思います。

――コロナにかかる意味とは?

岩田 具体的に言うと、オミクロン株の病原性がそれ以前のデルタ株よりも下がったことと、ワクチン接種の普及、さらに実際に感染してコロナの免疫を持つ人が社会の中に増えたことで、重症化率が低下して「コロナにかかること」のインパクトがグーッと下がってきたんですね。

最初の武漢株が流行した2020年や、その年の終わりから21年の初頭にかけてアルファ株が流行した頃は、まだワクチンが普及していませんでした。その頃のコロナは本当に怖い病気で、病棟には重症患者がたくさんいましたし、亡くなる方も多かった。

感染症のプロである僕自身も、当時はコロナにかかることがすごく怖くて、われわれ医療従事者は患者からコロナをもらわないように最大級の注意を払っていました。

それが今は、一般社会と同じように医療従事者でもコロナにかかる人はいて「私もコロナになっちゃった」「あ~、そう、それは大変だったね~」みたいな感じで、普通に話せるようになっている。こうした変化は皆さんもお感じになってると思います。

――確かに、そうですね。

岩田 そういう現実を考えると、もはやコロナの感染をビビリまくったり、危機感をあおったりというフェーズではなくなっている。「第8波で感染者が何人出た」というニュースに一喜一憂する時期はもう過ぎていると思います。

もちろん、今でも重症化した患者さんは悲惨ですし、「ロング・コビッド」と呼ばれる後遺症に苦しんでいる方が多いのもコロナの厄介なところですが、多くの人は熱と喉の痛みやせきの症状が出るぐらいで、軽症のまま治る方が圧倒的に多い。

もともと新型コロナ感染症は「多くの人にとっては大したことがなくて、一部の人が苦しむ」という特性の病気なので、それが社会に与える問題が二極化しがちなんですけど、今はその二極化がさらに進んでいる。

ですから、それが良いか悪いかは別にして「コロナの問題に真剣に取り組むのはバカバカしい」っていう世論の流れが出てくるのも理解できるし、世界的にもそういう雰囲気なんだと思います。

――ある意味、コロナは「インフルエンザみたいなもの」になりつつある?

岩田 「2類か5類か」みたいな感染症の分類の議論はともかくとして、だんだんインフルエンザのような感染症に近づいてるっていうのは事実だと思います。

ただしそこで理解する必要があるのは、インフルエンザだって毎日10万人が感染するような大流行になれば大変で、多くの方が亡くなりますし、社会へのダメージも大きいということです。

インフルエンザに対してもちゃんとした対策は必要で、それはコロナも同じということですね。

■リスクを認識して自分で判断を

――では、この年末年始をどう過ごせばいいのでしょう? 「第8波」はいつ頃ピークアウトするのでしょうか?

岩田 「第8波」がどうなるかは「人の振る舞い」という不確定要素にかかっていますが、今は感染拡大を怖がっている人もいれば、まったく気にしない人もいる。人の振る舞いが多様化していて予測はとても難しいですが、忘年会や新年会、閉じた空間でのイベントなどで、クラスターが繰り返し起きると思います。

いずれにせよ、地球規模でのコロナの封じ込めという目標が実現不可能になってしまった今、われわれはこの感染症のリスクと、やんわり共存していくしかない。

ただし「バンジージャンプはスリルがあって楽しい」っていう人と「あんな怖いことできるか」っていう人がいるように、どの程度のリスクを許容できるかは人によって異なります。

だから僕は「これが正しい振る舞いでこっちが間違った振る舞いだ」っていう言い方をする気はなくて、今や「万人に当てはまる線引き」っていうのは存在しないんです。

――結局、ひとりひとりが自分で判断するしかないと?

岩田 自分でリスクのある行動を取るなら、そのリスクは受け入れないといけないし、逆にリスクを避ければ避けるほど「できないこと」が増えるので、その判断は自分でするしかない。

ただそのとき、自分の行動にどれぐらいのリスクがあるのか認識せずに「こんなはずじゃなかった」と後悔するのは気の毒です。逆に知識をちゃんと持った上で「自分はここまでのリスクは受け入れる」と決めて、その結果、何が起きても納得できるなら、それでいいと思います。

――年末年始の飲食や帰省はどう考えれば?

岩田 今、これはしてはいけないっていうのはほとんどないし、逆にこういう行動を取れば大丈夫という保証もありません。ですから、外食や宴会をすればするほど自分が感染したり、人に感染させたりするリスクは段階的に増すということを理解した上で判断するしかありません。

帰省も同じで、当然、高齢のご両親や祖父母と触れ合う機会が生まれます。それがコロナを広げる可能性があるということは覚悟をしておく必要があるでしょう。

また帰省するとき、例えば3家族、4家族が一度に集まって大集団をつくるのか、帰省する時期を分散したり、短い滞在で帰るのかでもリスクの大きさは変わるので、実家のご両親の年齢や持病との兼ね合いで判断してください。

――ワクチンの追加接種は本当に必要ですか?

岩田 多少のリスクがあっても行動したい人、逆にリスクをできるだけ減らしたい人、どちらにもオススメできるのは、ワクチンを打っておくことですね。

ワクチン接種のメリットは社会活動の抑制をせずに感染や重症化のリスクを減らせることなので、お互いに最新のワクチンを打って防御を固めておけば、それだけ自由な行動がしやすくなります。

ちなみに、ワクチンの重症化予防効果はある程度長持ちするので、重症化リスクが高くない人が自分を守るだけなら2回、3回の接種でも十分かもしれません。

一方、行動制限は最低限にしたい人、帰省して高齢のご両親に会う人や、受験を控えている人やその家族は最新のワクチンの追加接種で、短期的な感染防御力を高めておいたほうがいいと思います。

■コロナは普通の病気になっていく?

――年末年始に発熱したら?

岩田 重症化リスクが高い人や、マジでしんどい人、具体的には息が苦しい人は病院へ行ったほうがいいですが、特にリスクが高くなくて、熱が出て喉が痛くて鼻水が出てるだけの人は、家で安静にして、市販の風邪薬を飲むなどの対症療法でいいと思います。

抗原検査はしたかったらしてもいいですけど、その結果、コロナ陽性でもインフル陽性でも基本的な対処法は同じです。わざわざ医療機関を受診して、新しいコロナ治療薬のゾコーバを処方してもらっても、症状が出る期間がせいぜい1日短くなる程度の効果です。

――2023年、コロナは今よりも「普通の病気」になっていくのでしょうか?

岩田 おそらく、そうなっていくでしょうね。これは政治マターでもあるので、感染症法における位置づけとか、国のお金の出し方にも関係してくるのですが、僕もそうなるべきだと思っています。

ただし、コロナを「普通の病気にすること」にはポジティブとネガティブの両面があります。通常の保険診療になれば、患者の自己負担も出てきますし、感染の急拡大時に行動制限をかけることが難しくなるので、高齢者や基礎疾患のある人の死亡リスクが増すかもしれない。

それでも「社会を回すためにはそうするべき」と国民が覚悟を決めて、きちんとコンセンサスを取れるのであれば、それに応じて緩和していくのだと思います。

唯一の懸念材料は変異株です。ウイルスの変異はランダムなので、運が良ければ弱毒化してラッキーなことになるかもしれないし、逆に病原性が増すような変異株が現れて、われわれに襲いかかってくる可能性もある。そういうストーリーも、常にシナリオの中に置いておくことです。


塩野義の「ゾコーバ」を緊急承認したりして国の方針が怪しく、学会も利益相反で信用できない今、この「付き合い方」で第8波を乗り切りましょう。

年末年始を乗り切るためのコロナ第8波「波乗りガイド」

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