以下は、記事の抜粋です。
2011年4月米国がん学会の年次総会で、UC San Diegoの病理学者 David Tarin が、がんが転移する仕組みを説明する主要な仮説の1つに異議を唱えた。
大半のがんは、上皮細胞層で生じる。上皮細胞は、正常時は移動性がないが、胚発生時には、上皮細胞は、より移動能のある間葉細胞へ転換して、胚内の適切な位置へと移動する。この「上皮間葉転換(EMT)」と呼ばれる現象ががんでも起こっていると考えれば、がん細胞が隣接する細胞群から離脱して血流中へ入り転移する仕組みを説明できる。これが、上皮間葉転換(EMT)説である。
この仮説は基礎実験で示された証拠によって支持されているが、Tarinらは、ヒトのがんでこうした過程が進んでいるのを実際に観察した例はまだないと主張している。
EMT-がん転移仮説の擁護派は、EMTが観察されないのは、これがごく一時的なものだからだろうと言っている。
Tarin は、実際のがん転移には細胞種の転換はかかわっていないのではないかと話す。転移が起こるのは、がん細胞が変異によって細胞間接着に支障をきたしたときだと、Tarin をはじめ、懐疑派の研究者たちは考えている。
以前、このEMT(Epithelial-Mesenchymal Transition)仮説を仮説ではなく前提とした発表を聴いて、違和感を覚えたことがあったので、この記事に興味を持ちました。
「がんは複数の遺伝子変化が蓄積して発生する疾患」というのが現在の一般的な考え方ですので、転移についても、「移動能のある間葉細胞へ転換」したと考えるよりも、原発部位に留まれないような変異が生じたと考える方が自然です。このように考えると「懐疑派」に分があるように思います。
しかし、関連記事にあるように、「がん幹細胞」が血管内皮細胞に分化して腫瘍内血管をつくるという話もあるので、がん細胞が間葉細胞様に変化することは十分可能性があると思います。
何でも疑うのが科学の基本ですので、EMT仮説も疑って当然ですし、がん研究がまだまだ「何でもあり」であることは、研究者として歓迎すべき状況だと思います。
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