有毛細胞白血病における100%のRAF V600E変異

BRAF Mutations in Hairy-Cell Leukemia

以下は、論文要約の抜粋です。


背景:有毛細胞白血病(hairy-cell leukemia、HCL)は、臨床病理学的にはっきりと区別される疾患であるが、その遺伝子異常は不明である。

方法:HCL患者の末梢血から精製した白血病細胞およびマッチさせた正常細胞について全エクソームの大量並列塩基配列決定を行い、HCL に関連する突然変異を探索した。結果は、サンガー法による塩基配列決定によっても確認した。

結果:全エクソームの塩基配列決定によって、BRAF V600E変異蛋白を生じるBRAFのヘテロ変異を含む5種類のミスセンス体細胞変異が同定された。BRAF V600E変異は、他の腫瘍において発癌の原因となるので、この変異を中心に解析を進めた。BRAF V600E変異はサンガー法で評価した47例のHCL患者全例で認められた。一方、他の末梢性B細胞リンパ腫、白血病の195例にはBRAF V600E変異は認められなかった。免疫組織学とウエスタンブロットで調べたところ、HCL細胞にリン酸化されたMEKとERK(BRAF キナーゼの下流標的)が発現していたので、HCL細胞ではRAF-MEK-ERKマップキナーゼ経路が恒常的に活性化されていると考えられた。5例の患者からのHCL細胞をBRAF特異的阻害薬であるPLX-4720で処理すると、リン酸化されたERKとMEKが著しく減少した。

結論:調べたすべてのHCL患者にBRAF V600E変異が認められた。この所見は、HCLの病因、診断、分子標的治療に意義があるかもしれない。


がん情報サイトによると、「有毛細胞白血病は容易にコントロールできる。」と書かれています。治療には、クラドリビン(2-クロロデオキシアデノシン)やペントスタチンなどのプリンアナログ、インターフェロンアルファなどが使われ、多くの場合、良く反応するとされています。また、全患者の約10%が全く治療を必要としないそうです。

一方、HCLの遺伝子異常についてはまったく不明でした。これは、HCL細胞の増殖能が低いためや患者の多くが汎血球減少症を示すためだそうです。培養細胞系も樹立されていませんでした。また、染色体の転座やSNPとの関連も認められませんでした。このような状況を変えたのが、エクソーム(全エクソン)配列決定です。

研究者らは、HCL患者の白血病細胞と非白血病細胞から得たゲノムDNAに対して市販の液体中エクソーム・キャプチャー法を用いて、全エクソームのショットガン・ライブラリーを作りました。これをIlluminaの次世代シーケンサーを用いて片っ端から大量並列塩基配列決定して、BRAF V600E変異をみつけたというわけです。

BRAF V600E変異は転移性メラノーマで約50%、甲状腺乳頭癌で約40%に認められることが報告されていますが、HCLはこれまで報告されたどの疾患よりも高率にBRAF V600E変異を持っているようです。BRAF-MEK-ERKの下流にあるcyclin D1の構成的発現やp27のダウンレギュレーションという特徴もメラノーマと共通しているので、HCLの主な病因がBRAF V600E変異であることは間違いなさそうです。

HCLは比較的予後の良い疾患のようですが、プリンアナログに対する反応性が悪い症例もあるようです。本研究により、このような例にもBRAF特異的阻害薬であるPLX-4720(ベムラフェニブ、Vemurafenib)が有効である可能性が出てきました。

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