アスピリンは抗うつ剤の効果を減少させる?

アスピリンは抗うつ剤の効果を減少させる、米研究

以下は、記事の抜粋です。


アスピリンなど、鎮痛のために服用する抗炎症薬は、プロザック(Prozac)をはじめとする抗うつ剤の効果を減少させる可能性があるとする研究結果が、4月25日の米科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。

米ロックフェラー大の研究チームは、代表的な抗うつ剤である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)について、イブプロフェン、アスピリン、ナプロキセンと併用した場合の効果を調べた。SSRIには、プロザック、パキシル(Paxil)、レクサプロ(Lexapro)、ゾロフト(Zoloft)などが含まれる。

まず、マウスの実験で、SSRIにより分泌が促進される細胞内シグナル伝達タンパク分子「サイトカイン」の脳内レベルの推移を調べた。その結果、抗炎症薬がSSRIの効果を抑制していることが分かった。

次に、米国で成人4000人を対象に7年間にわたり行われた同国史上最大の抑うつ剤の使用に関する調査「STAR*D」のデータ(2006年に公表)を分析。その結果、抗うつ薬治療が効いたのは、鎮痛剤を使用していない患者で54%だったが、鎮痛剤を使用していた患者では40%だった。

論文の共著者、Paul Greengard氏は「(抗炎症薬が抗うつ剤の効果を減じる)メカニズムは不明」としているが、「抑うつ剤を処方されている患者に抗炎症薬も処方する場合は、その利点と欠点を注意深くはかりにかけなければならない」と話している。


元論文のタイトルは、”Antidepressant effects of selective serotonin reuptake inhibitors (SSRIs) are attenuated by antiinflammatory drugs in mice and humans”です(論文をみる)。

サイトカインがうつ病で重要な役割をはたしているという仮説があります。これは、IFNαやIL2の投与がうつ状態を引きおこすことなど様々な現象が知られているからです。また、S100ファミリータンパク質の1つのp11(別名S100A10)は、ネズミモデルのうつ病様状態や抗うつ薬に対する反応性における重要な制御因子であるという報告があります。これは主にGreengard研からの報告です。本論文では、

抗うつ薬→特定のサイトカインの増加→p11の増加→うつ状態の改善

という仮説と抗うつ薬によるサイトカインの増加を抗炎症薬が抑制するという仮説を立て、マウスを用いた実験と臨床試験によって証明されたと主張しています。

ただし、ここでの抗うつ薬とはSSRIのことで、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害する古典的な三環系抗うつ薬は含まれません。また、論文で使われているcitalopram (シタロプラム)やfluoxetine(フロキセチン)というSSRIも日本では未承認です。

Greengard氏は、「神経系の情報伝達に関する発見(discoveries concerning signal transduction in the nervous system)」により、2000年にArvid CarlssonとEric Kandelと一緒にノーベル賞を受賞した人です(研究室のHPをみる)。アカデミーの会員なので査読なしでPNASに掲載できるのですが、かなり強引な論文だと思いました。

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