新型コロナウイルス感染症の治療薬 現時点での候補は?(2020年3月14日時点)

新型コロナウイルス感染症の治療薬 現時点での候補は?(2020年3月14日時点)
以下は、記事の抜粋です。


新型コロナウイルス感染症の流行が世界中で広がっています。課題の一つとして治療薬がないことが挙げられますが、候補となる薬剤がいくつかあります。これらの薬剤はどういったものか、現時点でのエビデンスについて解説します。

1.カレトラ

今の時点で日本国内で新型コロナウイルス感染症の症例に最も多く使用されているのはカレトラです。

カレトラはロピナビルという薬剤とリトナビルという薬剤の合剤であり、HIV感染症(エイズ)の薬剤です。かつてはHIV感染症の治療薬として第一選択薬でしたが、近年は新しい薬剤が登場したことから、カレトラが抗HIV薬として使用される頻度は減ってきています。

カレトラはプロテアーゼ阻害薬という種類のものであり、ウイルスの増殖を抑える薬剤です。HIVと新型コロナウイルス感染症が似ているというわけではありません。以前からこのカレトラは同じコロナウイルスによる感染症であるSARSやMERSに有用かもしれない、と言われていました(Thorax. 2004 Mar;59(3):252-6.、Infect Chemother. 2015 Sep;47(3):212-22.など)。

そのため、今回の流行が始まった当初からカレトラは中国で患者さんに投与されていますし、日本国内でも複数の患者さんに使用されています(「NCGM COVID-19入院患者の背景・症状・診断・治療の概要」)。

これは「適応外使用」として、倫理委員会などの審査を経て、患者さんに十分な説明を行った上で同意が得られた場合に使用されるものです。

注意すべき点としては、併用できない薬剤が多い点、HIVの検査が必要になる点が挙げられます。治療効果については、現時点では明らかではありません。

2.レムデシビル

レムデシビルは元々はエボラ出血熱の治療薬の候補として他の臨床試験で使用されていた薬剤です。現在もエボラ出血熱の症例に対して、ランダム化比較試験という形でレムデシビルが投与されていました。

しかし、結果としてはレムデシビルはMAb114、REGN-EB3という2つの薬剤に治療効果が劣ることが分かり、現在はエボラ出血熱への投与は中止されています(N Engl J Med. 2019 Dec 12;381(24):2293-2303.)。

武漢ウイルス研究所がCell Researchという医学誌にレムデシビルの新型コロナウイルスに対する効果に関する報告を発表しました。

培養細胞に新型コロナウイルスを感染させ、48時間後のウイルス増殖の抑制効果を見たところ、レムデシビルで高い阻害効果が観察されたというものです(Cell Res. 2020 Feb 4. doi: 10.1038/s41422-020-0282-0.)。

また、アメリカで最初に新型コロナウイルス感染症と診断された症例にもこのレムデシビルは投与されています(N Engl J Med. 2020 Jan 31. doi: 10.1056/NEJMoa2001191.)。この患者さんはその後回復していますが、それがレムデシビルの効果によるものかは分かりません。

国内では国立国際医療研究センターを中心に3月からこのレムデシビルの国際共同医師主導治験が開始されるとのことです。すでに中国でも臨床研究が行われており、4月には結果が出る見込みです。

3.アビガン

アビガン(薬剤名:ファビピラビル)は富士フイルム富山化学が開発した薬剤です。日本国内ではインフルエンザ薬として承認されていますが、催奇性があることから新型インフルエンザなどが発生した場合などに備えて備蓄されており、普通のインフルエンザの患者さんに使用されることはありません。

RNAポリメラーゼという酵素を阻害することから、インフルエンザ以外のRNAウイルスにも幅広く効果が期待できる薬剤と言われています。

本薬剤もレムデシビルと同様、エボラ出血熱に使用されたことがありますが、明らかに有効とまでは言えない結果となっています(PLoS Med. 2016 Mar 1;13(3):e1001967.、Clin Infect Dis. 2016;63(10):1288-94.)。

新型コロナウイルスに対する効果はどうかと言いますと、先程のレムデシビルのウイルス阻害効果を見たCell Researchの研究ではこのアビガンも評価されており、実験室レベルでは一定の阻害作用は確認されています。

ただし、国内で実際の患者さんに使用されるのはこれからであり、新型コロナウイルス感染症に対する有効性については現時点では不明です。日本国内だけでなく、中国を含む諸外国でも使用されています。

4.クロロキン

これらの薬剤以外に、中国ではクロロキンという抗マラリア薬が使用されています。中国の「COVID-19診療ガイドライン(6版)」ではクロロキンが治療薬の選択肢として記載されています。日本では未承認薬の扱いとなっています。

クロロキンはかつて世界中で使用されてきた抗マラリア薬ですが、近年は耐性マラリアの増加によりマラリアの治療には使われなくなってきています。

クロロキンと類似した構造を持つヒドロキシクロロキン(プラケニル)は国内では全身性エリテマトーデス(SLE)などに使用されていますが、これはヒドロキシクロロキンが抗炎症作用、免疫調節作用を持つためです。

クロロキンにも同様の作用があり、これが新型コロナウイルス感染症に有効な可能性がある、というわけです。先程のCell Researchの報告で実験室レベルでの新型コロナウイルスの抑制効果が示されています。

日本でもヒドロキシクロロキンが使われた事例があり日本感染症学会のHPに「ヒドロキシクロロキンを使用し症状が改善したCOVID-19の2例」として掲載されています(症例報告をみる)。2例はいずれも回復したとのことですが、症例数が十分ではなく、中国での成績も発表されていないため治療効果は不明です。

5.シクレソニド

日本ではシクレソニド(商品名:オルベスコ)という吸入ステロイド薬を使用し改善した3例が報告されています(症例報告をみる)。

シクレソニドは気管支喘息などに用いられる吸入ステロイド剤ですが、この報告によると国立感染症研究所コロナウイルス研究室により、シクレソニドがSARS-CoV-2に対し強い抗ウイルス活性を有することが示されたとのことです。

全身投与ではなく局所に作用する吸入ステロイド剤であることから副作用が少なく、もし有効であるとすれば有望な治療薬となり得ます。

6.回復者血漿

回復者血漿というのは感染症から回復した人の血液の一部を、今その感染症で苦しんでいる患者さんに投与するものであり、輸血の一種になります。回復した人たちは新型コロナウイルスに対する抗体を持っていることになります。この抗体を投与することが回復者血漿を使用する目的になります。

これまでエボラ出血熱など有効な治療薬のない新興再興感染症に対する治療の選択肢の一つとしてSARSやMERSにも使用されてきました。しかし、解決すべき課題として、血漿採取の手順の整理、血漿中にウイルスが含まれないことの確認、抗体が十分に産生されていることを確認する方法の検討、輸血と同等の感染症スクリーニングなどがあり、容易に行うことができない治療法です。


上記のような薬剤を使用した例や使用しなかった例についての日本国内での症例報告は、日本感染症学会のホームページでみることができます(ホームページをみる)。

加藤厚労相は2月22日、日本テレビ系の番組に出演し、「アビガンをはじめ、さまざまな薬について効くかどうかしっかり確認し、効くのであれば全国に展開して、新型コロナウイルスの治療の一つに使っていきたい」と述べ、国産の「アビガン」の活用に前向きな考えを示しました。また、「2/22頃に初めてコロナ患者に投与した」との報道がありました。シクレソニドの最初の投与日が2月21日だったので、もうそろそろ報告があっても良いころですが、、、

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