以下は、記事の抜粋です。
互いに進化的に近い緑藻で、単細胞のクラミドモナスと多細胞のボルボックスのゲノム配列を比べたところ、遺伝子数にほとんど違いがないことを米エネルギー省(DOE)の研究所や奈良女子大などの国際チームが解明し、7月9日付の米科学誌サイエンスに発表した。
両者は2億5千万~2億年前に単細胞の祖先から分かれたとされ、チームの西井一郎奈良女子大特任助教は「単細胞生物から多細胞生物への進化がゲノムレベルで明らかになった。単細胞生物がもともと持っていた遺伝子をうまく利用し、多細胞生物に進化したのだろう」としている。
クラミドモナスとボルボックスは、いずれもべん毛を使って移動するが、クラミドモナスは一つの細胞だけでできているのに対し、ボルボックスはたくさんの細胞が球状に集まり、その中に生殖細胞を持つ。
研究チームは、ボルボックスのゲノム配列を解析し、クラミドモナスと比較。ボルボックスの遺伝子数は1万4520個で、クラミドモナスの1万4516個と4個しか違わず、新しい遺伝子が大幅に増えたわけではないことが分かった。
元論文のタイトルは、”Genomic Analysis of Organismal Complexity in the Multicellular Green Alga Volvox carteri“です(論文をみる)。
研究者らは、多細胞の緑藻であるVolvox carteriの138メガ塩基の全ゲノム配列を決定し、その配列から予測される14,500のタンパク質を単細胞の近縁種であるChlamydomonas reinhardtiiのものと比較しました。C. reinhardtiiのゲノムは既に決まっていました。VolvoxとChlamydomonasのゲノムの差は、ヒトとニワトリの差にほぼ相当するそうです。
新聞記事では遺伝子の数だけが近いように書かれていますが、それだけではなく、遺伝子にコードされるタンパク質のレベルでもほとんど同じだったそうです。特に、2種の生物でかなり違うことが予想された、1)分泌と膜輸送、2)細胞骨格、3)細胞外マトリックスと細胞壁、4)細胞周期、5)転写、に関与するタンパク質ついては、予想を裏切って良く似たタンパク質がとちらにもあり、その種類の数もほぼ同じでした。
例外は、pherophorinsとVMPs (Volvox matrix metalloprotease)という2つの細胞外マトリックスとDサイクリンの3タンパク質ファミリーだけで、これら3ファミリーのタンパク質についてはVolvoxに多くの種類が存在していました。
単細胞生物からどのような過程を経て多細胞生物がうまれたのか?という疑問は、生物学のミステリーの一つでした。
本研究から明らかになったことは、単細胞から多細胞に変わる時に新しく多くの遺伝子が創り出されたのではなく、単細胞の時から持っていた遺伝子をうまく使って、あるいは使い方を変えて多細胞に変化したということです。
単細胞モデル生物を研究している人には嬉しい報告だと思います。
Volvox、Chlamydomonasとその他近縁の緑藻類
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