「何かあれば受診するように」の説明で敗訴
以下は、記事の抜粋です。
訴訟で争われることが多いのは、「どのような症状が現れると病院を受診する必要があるか」の説明です。最高裁平成7年5月30日判決(判例タイムズ897号64ページ)は、退院時の療養指導に注意義務違反があるとしたものです。患者側の訴えを認め、医療機関側に逸失利益や慰謝料などの支払いを命じています。
1.事案の概要
Xの母は、Yの経営する産婦人科医院で昭和48年9月21日に第3子Xを出産しましたが、未熟児であり、第1子、第2子とも出産時に黄疸が出ていたため、Xについても心配していました。Xの入院中の黄疸は軽度であり、Yは、同月30日に退院させるに際し、「何か変わったことがあったらすぐにYあるいは近所の小児科医の診察を受けるように」との注意を与えたのみで、黄疸について特に言及しませんでした。Xは、10月3日頃から黄疸が増強し、哺乳力が減退したため、Xの母は同月8日に病院に連れて行きましたが、既に手遅れの状態であり、核黄疸の後遺症として脳性麻痺となりました。
2.最高裁判所の判断
最高裁は、退院時のYの説明について下記のような判断を示し、注意義務違反を認めました。
Xが未熟児であったこと、生後10日目の退院時にも黄疸がなお残存していたこと、Yは母親には黄疸が遷延しているのは未熟児のためであるから心配ない旨の説明をしていたことなどの事情がある本件では、産婦人科の専門医であるYとしては、退院させることによって自らXの黄疸を診察することができなくなるのであるから、Xを退院させるに当たっては、看護するXの両親らに、Xの黄疸が増強することがあり得ること、黄疸が増強して哺乳力の減退などの症状が現れたときは重篤な疾患に至る危険があることを説明し、黄疸症状を含む全身状態の観察に注意を払い、黄疸の増強や哺乳力の減退などの症状が現れたときには速やかに医師の診察を受けるよう指導すべき注意義務を負っていたというべきである。退院時にXの黄疸について特段の言及をせず、何か変わったことがあれば医師の診察を受けるようにとの一般的な注意を与えたのみでは、Yはこの注意義務を尽くしたとはいえない。
3.解説
核黄疸は、罹患すると死に至る危険性があり、重症例では脳性麻痺などの後遺症を残す可能性が高い疾患です。そのため、初期症状である筋緊張の低下、哺乳力の減退などが現れた段階で交換輸血などを実施する必要があるとされています。
本件では、退院後に核黄疸に罹患したとされていますが、退院時に軽度とはいえ黄疸が残存している場合には、「何かあったら病院に行くように」というような一般的な説明ではなく、黄疸が増強して哺乳力の減退などの症状が現れたときは重篤な疾患に至る危険があることを説明し、速やかに医師の診察を受けるように指導すべき注意義務がある、としたものです。
本件は退院の際の説明が問われた事案ですが、外来通院終了時の説明も同様に考えることができます。一定の症状が見られれば重大な疾患に至る可能性があったり、早急に医師の診察を受ける必要がある場合には、医師は、その旨具体的に説明する必要があるといえます。単に「何かあれば病院に行くように」というような一般的な説明にとどまった場合には、本件の患児の親のように、一定の症状が出てもしばらく様子を見るという対応を取る可能性を否定できず、説明内容として不十分であるとして説明義務違反になる可能性が高いといえます。
非常に重要なポイントだと思うので、自分のためのメモとしてブログにアップしておきます。
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