経口第三世代セフェムを使うのは止めよう(後編)

経口第三世代セフェムを使うのは止めよう(後編)
10月30日に紹介した岩田健太郎氏の書かれた記事の後編です。フロモックス®などの経口第三世代セファム系の抗生物質は、スペクトルが広すぎて臨床上重要なブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌などのグラム陽性菌には効果が少ない事や消化管からの吸収が悪い(バイオアベイラビリティが低い)ことは良く知られていますが、副作用はしっかりあることはあまり知られていません。以下は、その副作用について明快に書かれている部分の抜粋です。


第三世代セフェムにも副作用はある

第三世代のセファロスポリンは体内への吸収が非常に悪いことを指摘しました。体に入らない抗菌薬、感染部位に届かない抗菌薬はぜったいに効きません。

それでも第三世代セファロスポリンが臨床的に問題じゃないかのような印象があるの は、それはほとんどのケースが抗菌薬なしで自然治癒するケースであり、第三世代セフェム「ですら」患者さんがよくなってしまっているからです。

さて、治療効果もないが害にもならないと考えられがちな第三世代セファロスポリンですが、さにあらず。例えば、偽膜性腸炎。第三世代セフェムは腸内のグラム陰性菌……つまり大腸菌のような菌を(無意味に)殺してしまいます。そうすると、Clostridium(Clostridioides)difficile(ディフィシル菌)という耐性菌が腸で増えて、腸炎を起こします。昔は第三世代のセフェムはそんなに危険ではない、と言われてきましたが、現在ではクリンダマイシン、そしてニューキノロン製剤とともに、第三世代セフェムはディフィシル菌による腸炎の最大のリスクです。

ピボキシルのリスクについても付言しておきましょう。第三世代セファロスポリンの多くは消化管からの吸収が良くないので、少しでもよくするために、ピボキシル基がついているのです。吸収された後は元のセファロスポリンとピバリン酸が生じます。

問題はこのピバリン酸です。これはカルニチン抱合を受けてピバロイルカルニチンになり、尿中へ排泄されます。そうすると血液の中にあるカルニチンが消費され、低下してしまうのです。

カルニチンは細胞の中にあるミトコンドリアの脂肪酸β酸化に必要な因子です。体内の糖が足りないときは、脂肪酸β酸化によって糖が作られます。したがって、カルニチンが低下し、脂肪酸β酸化が行われなくなると、糖新生が行えません。糖の補給が充分でないときは低血糖発作が起きる可能性があるのです。

第三世代のセファロスポリンは副作用が少なく安全に処方できると信じている医者は多いです。患者さんも気軽に飲める抗菌薬だと誤解しています。副作用のリスクが存在しない抗菌薬はこの世にはありません。こういうリスクをよく理解して、必要な時だけ使うことが大事なのは、そのためです。

第一世代を使うべし

このように第三世代のセファロスポリンは、臨床現場で使われている使われ方ではほとんどのケースで誤用されています。他の抗菌薬同様、第三世代のセファロスポリンには副作用の問題がついて回ります。患者さんには有害なものになりえるのに、得る利益はほとんどありません。だから、臨床現場での使い道もほとんどないのです。

世界でも突出してフロモックス®やメイアクト®のような第三世代の経口セファロスポリンは、抗菌薬の誤用が多い日本の象徴のような存在なのです。99.9%の経口第三世代セファロスポリンが誤用である、という筆者の言葉は少しも誇張が入っていないのです。

では、経口セファロスポリンにはまったく使用価値がないかというと、そんなことはありません。古い第一世代、例えばセファレキシン(ケフレックス®など)を用いればよいのです。

セファレキシンはグラム陽性菌に(ほぼ)特化した抗菌薬ですから、皮膚軟部組織感染症(skin and soft tissue infection:SSTI)にも良い選択肢です。消化管からの吸収も極めてよいので、第三世代セフェムよりもはるかに経口薬として利点があります。偽膜性腸炎も起こしにくいです。

抗菌薬はできるだけ古く、そして狭い抗菌薬を優先するのが原則です。セファレキシンはまさにその代表格なのです。

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