「がん代替医療「死亡リスク2.5倍」の大きな衝撃!」…良記事です!

がん代替医療「死亡リスク2.5倍」の大きな衝撃!…エビデンスだけがすべてではないけれど

筑波大の原田 隆之氏が書かれた記事です。前半では、女優の南果歩さんが、日本対がん協会が主催する乳がん啓発のための「ピンクリボンシンポジウム2017」で、抗がん剤をやめて、代替医療に頼っていることを明かしたという、対がん協会にとっては衝撃かつ屈辱的な出来事を紹介し、実際にはがんの代替医療の死亡リスクが標準医療よりも高いことを丁寧に書かれています。後半では、エビデンスに基づくがん治療は患者のためであることを詳しく説明し、基本的にはガイドラインに従うべきではあるが、最終的には患者本人の症状、状況、そして価値観や「人生の物語」に照らして、適切な選択をすべきであると書かれています。以下に抜粋を紹介しますが、がん治療で悩んでおられる方は是非、原文をお読みください。


昨年乳がんの手術を受けた女優の南果歩さんが、日本対がん協会が主催する乳がん啓発のための「ピンクリボンシンポジウム2017」で講演し、抗がん剤をやめて、代替医療に頼っていることを明かしたという。講演では、抗がん剤などの標準治療の重要性は十分に理解したうえで、あくまで個人的な決断として代替療法を選んだと述べられたというが、一部メディアでは「見本にしてほしい」と述べたことがクローズアップされて報じられたため、大きな波紋を招くこととなった。

一方、先ごろ、非常にショッキングな論文が、アメリカの国立がん研究所の専門誌に発表された。イェール大学の研究チームによるその論文では、がん(乳がん、肺がん、前立腺がん、大腸がん)に罹患し、代替医療を受けた人の死亡リスクが、標準治療を受けた人の2.5倍に上ることがわかったと報告されている。文では、同研究所のデータベースに登録された患者840人のデータを集め、代替医療を選んだ280人、一般的治療を選んだ560人の5年間生存率を比較した。その結果が、上の数字である。さらに、比較的若年で、収入と学歴が高い人が、代替医療を選択する傾向にあることも報告されている。

厚生労働省は、「統合医療」情報発信サイト(eJIM(イージム))を立ち上げて、「民間療法をはじめとする相補(補完)・代替療法と、どのように向き合い、利用したらよいのかどうかを考えるために、エビデンス(根拠)に基づいた情報を紹介しています」と書いている。

では、ここでがんの代替医療についてのエビデンスを見てみよう。eJIMのサイトには、がんだけで32種類の代替療法に関するコクランレビューが紹介されている。その中には、ヨガ、漢方薬、霊芝、経皮的神経電気刺激、音楽療法、スピリチュアルな介入、高圧酸素療法、胸腺ペプチド、緑茶、抗酸化物質補充、ホメオパシー、鍼療法などがある。

たとえば、わが国でも人気の高い「霊芝(キノコ)」の効果は、どのようになっているのだろうか。コクランレビューでは、きわめてシンプルに「霊芝の使用を支持する十分なエビデンスは見出せなかった」と結論されている。また、「害についての報告はほとんどないが、費用対効果を十分に考慮すべきである」とも書かれている。霊芝の価格は、ピンからキリまであるが、中には相当高価なものもあるからだ。

エビデンスを知りたければ、もう1つ確実な方法がある。それは診療ガイドラインを読むことである。主だった疾患には、関連学会などが診療ガイドラインを作成している。診療ガイドラインは、主として診療にあたる医師が読むものであるが、これもまた患者が読んで悪いわけはない。むしろ、積極的に目を通して、治療の選択肢やそのエビデンスを知るべきである。

厚生労働省による委託事業として、「Minds(マインズ)ガイドラインライブラリ」というものがある。診療ガイドラインは「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義されている。

こうした資料を積極的に活用し、エビデンスに基づいた選択をすることが、医師にも、そして何より患者にもますます求められる。医師に説明を受けるときの決まり文句として、医師に対して「その治療のエビデンスはどうなっていますか」、あるいは「診療ガイドラインではどのようになっていますか」などと尋ねることを決まり文句とすればよい。

例えば、「霊芝を飲んでみようと思うのですが、エビデンス(効果は)ありますか」と尋ねたとき、医師のほうは、患者の藁にもすがりたい気持ちを汲みつつ、コクランレビューなどに従ってわかりやすくデータを示して、「残念ながら、現時点ではエビデンスはほとんどありませんね」などと答えるならば、患者は賢い選択ができるだろう。一方、そこで嫌な顔をしたり、「キノコなんかでがんが治れば苦労しませんよ」と鼻で笑ったりする態度を取るような医師は失格である。データを見てみないと、本当に効果があるかどうかはわからない。単なる印象や直観で物を言うのは、科学的な態度ではない。キノコがダメと言うけれど、ペニシリンだって元はカビなのだから。このように考えると、エビデンスを医師に問うことは、良い医師と悪い医師を見分ける決まり文句にもなる。繰り返すが、エビデンスは医師のためにあるのではなく、患者のためにある。

しかし、ここで一番重要なのは、もちろんデータやエビデンスだけがすべてではないということである。診療ガイドラインも、あくまで臨床現場における意思決定の際の判断材料の1つにすぎない。また、そこに記されているのは、一般的な治療方法であるため、必ずしも1人ひとりの患者にぴったりと当てはまるわけではない。

患者と医師が対等な立場で、最新最善のエビデンスを知り、そのうえで患者本人の症状、状況、そして価値観や「人生の物語」に照らして、適切な選択をすべきである。そのうえで、患者本人が代替医療を選ぶという選択をしたのであれば、残念ではあるけれど、それは尊重すべき決断というしかない。

私自身は、エビデンスのないあやしげな代替医療には、断固として反対である。そして、そうした療法を患者に無責任に推奨したり、宣伝したりしている一部医療関係者や似非専門家の類には、心底嫌悪感を覚える。だからこそ、そうした者たちに対抗するために、このような場を借りて、エビデンスに基づく意思決定の重要さを主張するのであるが、代替医療の人気の高さ、根強さを見るにつけ、無力感を抱くこともしばしばである。

南さんの発言を巡る騒動に話を戻せば、波紋が広がったことの責任は、南さん自身にあるのではなく、その内容を事前にチェックせずに、がん啓発のシンポジウムに呼んでしまった主催者側にある。それは、彼女の個人的な決断であったものを、注目を集める場所に引きずり出してしまったことの誤りである。結果として、影響力のある著名人が、多くの人に誤ったメッセージを伝えることになってしまったという構図となり、それが残念でならない。

こういう意味では、南さん自身も被害者だといえる。自分自身の病気の治療というきわめて個人的なこと、そしてその選択にまつわる個人的な物語が、思いもよらぬ波紋を広げてしまったということなのだろう。だから、南さん自身には、今回の騒ぎにこれ以上心を乱されることなく、最善を尽くして病気を乗り越えていってもらいたいという切に願うばかりである。


重要な文章が多すぎて「抜粋」が長くなってしまいました。ご勘弁ください。南さんは私も好きな女優さんだったので驚きました。以下は、オリコンニュースから引用した南さんの発言です。残念ながら、問題のある発言で、上の記事にある原田氏の指摘が正しいと思います。


(南さんは、)現在は薬での治療から代替治療に切り替えたと明かし、「私のやり方は一つの症例であって、皆さんに当てはまるものではない。ただ、お手本にならずとも一つの見本になったらいい。私が公に言うことで、そういう方法もあると皆さんの視野が広がることが一番の目的」と補足した。


原田氏が書かれている「アメリカの国立がん研究所の専門誌に発表された非常にショッキングな論文」のタイトルは、”Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival”です(論文をみる)。この論文については、本ブログでも取り上げていますので、よければご一読ください(ブログ記事をみる)。

健康食品やサプリメントの効果、似非カウンセリングの効果についての原田氏が、「ほとんどの健康食品やサプリにはプラセボ効果以上の効果はなく、軽視できない害もある」と結論されているのにはまったく同感です。しかし、恥ずかしいことに「キノコなんかでがんが治れば苦労しませんよ」と鼻で笑ったりする態度を取ることが多かったです。今後は、「統合医療」情報発信サイトを参照して丁寧に説明するようにします。

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