2026年度イグ・ノーベル賞全10部門の研究内容まとめ

「くすっと笑えるけど考えさせられる研究」に贈られる2026年度イグ・ノーベル賞全10部門の研究内容まとめ、日本人は20年連続受賞
以下は、記事の抜粋です。


「イグ・ノーベル賞」の第36回授賞式が日本時間の2026年9月4日に開催され、10部門の賞が「笑わせ、考えさせるような興味深い研究」に贈られました(サイトをみる)。

授賞式は毎年アメリカの大学で開催されるのですが、2026年度の授賞式は「アメリカへの入国が難しくなっていることへの懸念」を理由に、初めてスイスのチューリッヒで開催されました。そのため、今回で第36回目の開催なのですが、「First(第1回)」と銘打たれています。

生体力学賞:英国のマチルダ・ブリンドル氏、スチュアート・ウェスト氏、アメリカのキャサリン・F・タルボット氏に贈られました。ブリンドル氏らはそもそも「キス」とは何なのかを人間だけでなく動物にも適用できるように、大まかに「争いではない状況で、同じ種の個体同士が口と口を接触させ、口や唇を多少動かすもの。ただし食物の受け渡しは含まない」と定義し、霊長類を中心としたさまざまな動物の行動記録を比較した点が評価されました。

その結果、大型類人猿の共通祖先は約2150万年前にはすでにキスをしていた可能性が高く、現生人類だけでなくネアンデルタール人もキスをしていた可能性があると推定しています。受賞者スピーチでは、古代の人類と研究者による熱烈なキスが行われました。

経済学賞:アメリカのポール・ピフ氏、ダニエル・スタンカート氏、ダッチャー・ケルトナー氏、カナダのステファン・コテ氏、メキシコ出身のロドルフォ・メンドーサ=デントン氏に贈られました。研究チームは、社会的・経済的な地位と倫理的な行動に関係があるのかを、7つの実験や観察研究で調べました。例えば、実際の交差点や横断歩道で高級車に乗っている人ほど他の車や歩行者に道を譲らない傾向があるかなどを観察。その結果、社会階級が高い参加者ほど非倫理的な行動を取る傾向がみられ、その一部は「強欲さを肯定的に評価する傾向」で説明できると研究チームは結論付けました。

化学賞:インドのサンチャリ・バネルジー氏、ニティシュ・サティヤナラヤナン氏、ジャンディヤム・スリカンス氏、フランス出身のフランソワ=グザヴィエ・ガラ氏、レオナール・シャヴァ氏、カナダのスティーブン・トーブ氏、アメリカのバーバラ・ステイ氏、インド出身のアメリカ人スブラマニアン・ラマスワミ氏ら11人に贈られました。Diploptera punctataというゴキブリは、一般的なゴキブリのように卵を外に産むのではなく、母親の体内で胚を育てます。研究チームは胚の腸からこの結晶を取り出し、X線回折などを用いて構造を解析しました。その結果、結晶にはタンパク質だけでなく糖や脂質も高密度に詰め込まれており、同じ質量の牛乳と比較すると3倍を超えるエネルギーを蓄えていると推定されました。

薬学賞:日本の海野徳二氏と矢島洋氏が1977年に発表した「鼻のかみ方-擤鼻(こうび)の気体動力学的研究-」です。研究チームは「上手な鼻のかみ方」を客観的に明らかにするため、14歳~48歳の男性15人を対象に、鼻呼吸や鼻をかんだ際の呼気速度、呼気量、時間を測定するとともに、耳への影響を調べるため外耳道内の圧力変化も記録しました。実験の結果、左右の鼻では空気の通りやすさにかなり差があり、通りやすい側を押さえて片方ずつかむことで、通りにくい側にも強い気流を発生させられることが分かりました。また、呼気速度が速いほど鼻腔内の分泌物を排出しやすいとして、研究チームは「基本的に片方ずつ」「かなり強く」「直前に少し息を吸い、できるだけ長く」鼻をかむ方法を推奨しています。なお、海野氏は2022年に亡くなったため、授賞式には旭川医科大学の耳鼻科専門医で海野氏に師事した高原幹教授が出席し、代理でスピーチを行いました。

生物学賞:ブラジルのジョアン・ミゲル・アルベス=ヌネス氏、アドリアノ・フェローネ氏、セルマ・マリア・アルメイダ=サントス氏、カルロス・ロベルト・デ・メデイロス氏、イヴァン・サジマ氏、オタヴィオ・アウグスト・ヴオロ・マルケス氏が生物学賞を受賞しました。毒ヘビが人間をかむかどうかがどんな条件によって決まるのかを確かめるため、研究チームはブラジルに生息する毒ヘビを75匹用意し、防護用ブーツを履いた実験者に足をヘビの近くに置かせたり、頭や胴体や尾を軽く踏んだりして、ヘビが足にかみつく確率を調べました。その結果、特に若く小さな個体、とりわけ若い雌はかみつきやすく、頭部を踏まれた場合は胴体や尾を踏まれた場合よりかみつく確率が高いことが判明しました。

物理学賞:アメリカのランディ・ハード氏、タッド・トラスコット氏、中国出身のパン・ジャオ氏、カナダのカヴィーシャン・スライラジャ氏に贈られました。研究チームは液体の流れが壁面に衝突する角度に注目し、一定以下の浅い角度で当たれば液滴として跳ね返らず、表面に沿って流れやすくなることを理論と実験の両方で確認しました。そして、身長の異なる利用者でも尿が壁面におよそ30度の浅い角度で当たるよう、オウムガイの殻のような曲面を持つ「Nautilus」という小便器を設計しました。実験では、Nautilusは一般的な小便器と比べて飛び散りを1.4%程度まで抑えられたと報告されています。

技術賞:ジャスティン・ピューマ氏、ジェン・ヤン氏、エバン・ジョンストン氏、ジャン・ズーシン氏、ラン・シャオイー氏、リンジー・ジャン氏、ホウ・ホンユー氏、ホー・ズーシン氏、アリ・アフィフィ氏、ミーガン・クレイトン氏、リー・ジエンユー氏、ツァオ・チャンホン氏に贈られました。研究内容は、死んだ生物の体の一部を機械部品として再利用する「ネクロボティクス」の発想を3Dプリンターに応用したものです。作製した3Dプリンターでは約20マイクロメートル幅の線を印刷でき、市販の極細金属ノズルよりさらに細かな造形に成功。また、ハニカム構造やカエデの葉の形を印刷したほか、がん細胞や赤血球を含む微細な足場構造も作製できました。研究チームは蚊の口吻そのものを「天然の超精密ノズル」として工学部品に転用できるとしています。

嗅覚賞:ドイツのイロナ・クロイ氏、トーマス・フンメル氏、ポーランドのトマシュ・フラツコヴィアク氏、ドイツとポーランドの研究機関に所属していたアグニェシュカ・ソロコフスカ氏が受賞しました。ポーランドの235人の親に、自分の子ども367人の体臭がどの程度心地よいかをアンケートで評価してもらいました。その結果、子どもが幼いほど親はその体臭を心地よいと評価し、年齢が上がるにつれて評価が低下する傾向が確認されました。研究チームは、乳幼児の匂いを心地よく感じることが親子の結びつきや養育行動を促し、子どもが成長して自立に近づくにつれてその役割が弱くなる可能性を指摘しています。

平和賞:アメリカのジェイミー・アローナ・クレムス氏、レベッカ・ハーネル=ピーターズ氏、ローレオン・メリー氏、ダニエル・スナイサー氏とキーラ・ウィリアムズ氏に贈られました。人は「親切で信頼できる人と友達になりたい」と考えますが、研究チームは「その友人が誰に対して親切なのか」も重要なのではないかと考えました。そこで、アメリカとインドの計1183人を対象に6つの研究を行い、自分自身、知らない人、自分の敵などに対して、理想の友人にどのように振る舞ってほしいかを調べました。その結果、自分に対しては親切で信頼できる友人が好まれ、知らない人に対しても基本的には親切な人物が好まれました。しかし、相手が「自分の敵」になると、友人にはその人物に親切にするよりも、場合によっては意地悪に振る舞ってほしいと考える傾向が確認されました。つまり人は無条件に「善良な友人」を求めるのではなく、「自分には親切だが、自分の敵には味方しない友人」を望みがちだというわけです。

土壌科学賞:スイスのフランツ・ベンダー氏、アトラント・ビエリ氏、ピア・ヴィヴィアニ氏と、オランダのマルセル・ファン・デル・ハイデン氏に土壌科学賞が贈られました。研究チームは土の中に綿100%のパンツを埋め、「どれだけ分解されたか」で土壌中の生物活動を測定しました。市民科学者約1000人が参加し、同じ種類の綿製パンツを土に埋め、30日後と60日後に掘り出しました。また、パンツと同時にティーバッグも埋め、土壌サンプルや温度、湿度などのデータも収集しています。実験の結果、個人の庭では分解が速く、芝生では土壌生物の活動が比較的低いことが分かりました。綿を食べて分解する微生物などが活発な土ほどパンツが大きく分解されるため、その残り具合を土壌の健康状態の指標にできると研究チームは主張しました。研究チームはこれを「Underpants Index」として、従来のティーバッグを使った測定法と同様に、一般の人にも直感的に理解しやすい土壌評価法として利用できるとしています。

なお、イグ・ノーベル賞の授賞式はYouTubeとニコニコ動画で公開されており、以下から視聴可能です。


日本語で書かれた論文でも受賞の対象になることや、死亡した研究者も対象になることに驚きました。

2000年のイグ・ノーベル心理学賞を受賞したデイヴィッド・ダニング氏とジャスティン・クルーガー氏の研究が紹介され、「『未熟と不注意:過大な自己評価へと導く自分自身の無能力を認めることが、どれだけ困難であるか』に対して」というテーマが表示された直後、会場のスライドには今回イグ・ノーベル賞の授賞式がスイスで開催された遠因となったドナルド・トランプ大統領の顔が大きく映し出されました。というのが一番印象に残りました。

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