ゾフルーザ、そんなにいい薬だったっけ。感染症学会のインフルエンザ委員会が出した文書を批判する。

ゾフルーザ、そんなにいい薬だったっけ。感染症学会のインフルエンザ委員会が出した文書を批判する。
岩田節がさく裂しています。以下は、ほぼ全文を転載したものです。


ゾフルーザ推しの文章が感染症学会の委員から出されている。タイトルは

キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬 バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザⓇ)の使⽤についての提⾔ 2025/26 シーズンに向け

だ。

https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/influenza_251110.pdf

今からこれをクリティークする。

まず、提言1である。

12 歳〜19 歳、および成⼈の外来患者におけるバロキサビルの投与について

12 歳〜19 歳、および成⼈の外来患者のインフルエンザの治療に際し、バロキサビルは抗ウ イルス効果、臨床症状改善の双⽅においてノイラミニダーゼ阻害薬(NAI)に優ります(同 等、あるいはそれ以上)」

「同等、あるいはそれ以上」であれば、「優ります」と断定するのは矛盾だと思うが、そこは措いておく。この提言の根拠を確認する。

健康成⼈が罹患したインフルエンザの治療に関する⼆つのメタ解析では、バロキサビル はオセルタミビルと⽐較して、ウイルスの⼒価と RNA 量の有意な低下、有害事象の減少を 認め、罹病期間が短い傾向にあることが⽰されています

とある。根拠となるメタ分析は以下の通りである

Shiraishi C, Kato H, Hagihara M, Asai N, Iwamoto T, Mikamo H. Comparison of clinical efficacy and safety of baloxavir marboxil versus oseltamivir as the treatment for influenza virus infections: A systematic review and meta-analysis. Journal of Infection and Chemotherapy 2024; 30:242–249.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37866622/

Kuo Y-C, Lai C-C, Wang Y-H, Chen C-H, Wang C-Y. Clinical efficacy and safety of baloxavir marboxil in the treatment of influenza: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Journal of Microbiology, Immunology and Infection 2021; 54:865–875.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34020891/

Shiraishi et al.では、2023年までの文献が検討されている。外来の有症状期間にNAIとの有意差はなく、あとはウイルス学的サロゲートマーカーで、これは臨床的に意味の大きなアウトカムとは言い難く(CRPが早く下がるみたいなものだ)、これをもってゾフルーザがベターとは、ちゃんとした臨床医ならば言わないだろう。アブストラクトではin-hospital mortalityが下がったと書いているが、実は95%信頼区間は1をまたいでおり、有意差はない。入院期間が短縮されたともあるが、これは単一の研究のみで作ったフォレストプロットで、「死亡」で引用された2つの論文の一つでもある。84人だけが組み込まれたシングルセンターの後向き研究で、日本呼吸器学会雑誌に載った日本の研究だ。論文を読むと、交絡因子の調節もなく、これをもって「ゾフルーザがNAIよりベター」と断じるのは牽強付会にすぎると思う。

Goto K, Toriyama A, Nomizo M, et al. Medical treatment for influenza inpatients and evaluation of anti-influenza agents at Takatsuki Red Cross Hospital. Annals of the Japanese Respiratory Society 2020; 9:239–244.(実際には和文の論文です)。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrs/9/4/9_09040239/_pdf/-char/en

Kuo et alについては、ゾフルーザの効果はプラセボと比較して良かった(Fig 3A)のであり、NAIに比べての優位性は示されていない。タミフルとの比較では各アウトカム有意差なしであった(Fig 3B)。ウイルス量の低下という「サロゲートマーカー」ではゾフルーザがベターであったが、これは前述のように意味が小さい。有害事象についても両剤に差はでなかった。

さらに提言は続く。

B 型インフルエンザウイルス感染症に対してはバロキサビルによる治療を推奨します。

大きな根拠となっているのは日本のレセプトデータを利用したコホート研究だ。インフルエンザBだけを対象とした、外来患者の、若干奇妙な研究である。

 Terazono T, Ito G, Hosogaya N, et al. Comparison of the Effectiveness of Baloxavir and Oseltamivir in Outpatients With Influenza B. Influenza and Other Respiratory Viruses 2024; 18:e70002.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39189087/

ビッグデータにIPTWを用いている。1万5千人以上の患者を解析した。この結果、ゾフルーザ群のほうが肺炎、および肺炎による入院、入院がより少なかった。が、ビッグデータを用いているがゆえに、当日のバイタルサインなどの重要な共因子が変数に入っていない。ビッグデータ・スタディの弱点と言える。

次いで引用された研究はLancetIDに載ったRCTだ。

Ison MG, Portsmouth S, Yoshida Y, et al. Early treatment with baloxavir marboxil in high-risk adolescent and adult outpatients with uncomplicated influenza (CAPSTONE-2): a randomised, placebo-controlled, phase 3 trial. The Lancet Infectious Diseases 2020; 20:1204–1214.
https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(20)30004-9/fulltext

たしかに、インフルエンザBについてはゾフルーザの症状改善はタミフルよりも統計的には有意にベターだったのだが、Fig2Cのカプランマイヤーカーブを見ればわかるがその差は微々たるもので、臨床的に意味のある違いとは言い難い。中国の後向き研究も引用されているが、これはインフルAを対象とした研究で、なぜここに引用されているのかはわからない。

Cai J, Wang H, Ye X, et al. Real-world effectiveness and safety of Baloxavir Marboxil or Oseltamivir in outpatients with uncomplicated influenza A: an ambispective, observational, multi-center study. Front Microbiol 2024; 15:1428095.

他にも延々と議論は続くが、ゾフルーザのNAIに対する臨床的優位性を示すものとしては弱く、「そことは関係ない話」が続いている。

まあ、後向き研究で、インフルBにはゾフルーザがよいかもねえ、なトピックではあるが、とりたてて学会の委員会が「ゾフルーザを使え」と主張するような内容ではない。主張が強すぎる。委員会にはメーカーとの利益相反がある人物もいるし、引用した文献の著者もいる。そのへんも差し引いて考えるべきだろう。

今はどうか知らないが、昔は化学療法学会雑誌に具体的な抗菌薬の名前が載せられて「何とかマイシン特集」みたいな特別号があり、単一の新規抗菌薬を推す数々の文献が並べられていた。海外では特定の疾患や特定の微生物の特集は多いが、特定の抗菌薬の特集は多くない(皆無ではない)。奇異なことをやるものだ、と往時は思っていたが、アレを思い出した。昔返りをしたような気がする。

最近の若手医師はちゃんとジャーナルクラブをやって批判的吟味もできる人も増えてきたし、メーカー主催の講演会や学会のランチョンセミナーで「なんとかの話題 〇〇マイシンを中心に」とかいう噴飯もののタイトルの話も聞かない人が増えていると思う(そう願っている)。ただ、そういうリテラシーのない若手医師が多いことも知っている。メーカー主催のお昼の説明会でもらえる高級弁当が何よりの楽しみ、なんて研修医も少なくない。

さて、流れはどちらのほうに向かうことか。注目している。


抗インフルエンザ薬の記事に書きましたが、日本人は全世界のタミフル®(一般名:オセルタミビル)の75%を消費しているそうですが、国産愛用主義の学会が塩野義のゾフルーザ®(一般名:バロキサビル)を上の記事のように、科学的根拠なく推しているので、おそらく世界の消費の99%以上が日本でということになると思います。

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