「スプリングスティーンは違法だ!」トランプ、セレブ潰しに本気で乗り出す
以下は、記事の抜粋です。
米国時間5月19日(月)早朝。ドナルド・トランプ大統領は突然、歌手ブルース・スプリングスティーンへの“本格的な捜査”を政府に要求した。
この前週の金曜、トランプはすでにスプリングスティーンに対して「口を閉じておくべきだ」と警告し、「アメリカに戻ってきたらどうなるか見てみようじゃないか」と脅しとも取れる発言をしていた。それにもかかわらず、スプリングスティーンは翌日の英マンチェスター公演で「今、アメリカでは民主主義の根幹を揺るがす事態が起きている。それを黙って見過ごすわけにはいかない」と再び大統領を批判。
その発言をきっかけに、トランプは根拠のない非難をさらにエスカレートさせ、スプリングスティーンに加え、2024年の大統領選でカマラ・ハリスを支持したビヨンセとオプラ・ウィンフリーにも矛先を向けた。
現在のトランプ政権下では、数々のスキャンダル、強権的な政策運用、倫理的問題が公然と進行している。彼の言動が注目されるたびに「またか」と一笑に付したくなるのも無理はないが、今回の“セレブ叩き”を単なる気まぐれや話題逸らしと片付けるのは危険だ。
トランプの表現の自由への攻撃は、2016年の初選挙戦からすでに始まっていた。そして“ザ・ボス”ことスプリングスティーンへの再三の脅しは、第二次トランプ政権が展開する“言論弾圧”と民主主義の破壊の一部である。
ホワイトハウス報道官のハリソン・フィールズは「法律を超越しているかのように振る舞う人々に説明責任を課すことは、Rolling Stoneには不快でも、アメリカ国民にとっては新鮮だ」と主張。司法省や連邦選挙管理委員会(FEC)が本件に関する管轄を持ち、「それぞれが独立して判断を下す」と述べた(FECは本誌の取材にコメントせず、司法省からは回答がなかった)。
関係者3名によれば、トランプは2024年の選挙前後から、司法省やFEC、連邦通信委員会などを使って、自身が「違法」と決めつける“民主党支持セレブ”への制裁を繰り返し側近に示唆してきたという。その対象にはトーク番組司会者やリベラル系著名人も含まれていた。
月曜、トランプは自身のSNSで以下のように投稿した。
「カマラ・ハリスはブルース・スプリングスティーンの“ひどいパフォーマンス”にいくら払ったんだ? 本当に彼女のファンなら、なぜ金を受け取った? これは明らかな違法献金じゃないのか? ビヨンセは? オプラやボノには? ……この件について大規模な調査を求めるつもりだ。候補者が推薦を“買う”ことは選挙法上許されていない。これはエンタメ費用に見せかけた汚職だ!」
だが、彼の法的主張は事実に反する。むしろ真逆だ。ハリス陣営がスプリングスティーンらに支払ったのは“推薦料”ではなく、正当な業務報酬だった。選挙資金法では、候補者陣営は業務に対して“市場価格での報酬”を支払う必要がある。もし支払わなければ、2つの違法行為ーー限度額超過の寄付と法人による直接寄付――に該当することになる。
それにもかかわらず、近年のトランプ政権では、こうした“復讐心”に乗じて動く弁護士や政治アドバイザーも存在するという。そしてその一部は現在、政権内に登用されている。
さらに、トランプは自身への皮肉や風刺ーー例えば深夜のコメディ番組でのジョークーーも“違法な政治的援助”だと考える節がある。初政権時には『サタデー・ナイト・ライブ』などのTV番組に制裁を加えようとし、ABCの司会者ジミー・キンメルに対しては、ホワイトハウス職員にディズニーへの圧力を指示していた。
以前はそんな彼の突飛な要求に、側近たちが軽く受け流す余裕もあった。しかし今、トランプの周囲にはその“無理筋な命令”を忠実に遂行する人間が揃っている。
もし現在の政権が、言論や寄稿だけを理由に市民を投獄するような姿勢をすでに見せていなければ、トランプのスプリングスティーン攻撃もただの“パフォーマンス”で済んだかもしれない。しかし、先月にはトランプ自身が大統領執務室でカメラを前に、元サイバーセキュリティ官クリス・クレブスに対する捜査命令に署名する場面を演出しているーー彼の“罪”は「2020年選挙は不正ではなかった」と公言したことだけだった。
トランプ政権が実際にスプリングスティーンを捜査するかどうかは、もはや本質的な問題ではない。「自由にものを言う権利」を行使しただけの市民に対し、大統領が“国家権力の全重量”を振りかざすという構図自体が、恐怖政治そのものであり、もし他の大統領がやっていたら到底許されなかっただろう。
2024年の再選をかけた選挙戦で、トランプはこう約束していた。「報復を果たす」と。そして「俺を追い詰めた連中は報いを受ける」と。当初はそれを「経済政策の成功で見返す」という話にすり替えようとする場面もあったが、実際の行動は明らかに“政治的復讐”の一環だ。
上の記事は、1967年に創刊された音楽や政治、大衆文化を扱うアメリカの隔週発行の雑誌『ローリング・ストーン』(Rolling Stone)に掲載されました。Rolling Stone誌は、以下の記事でこれまでブルース・スプリングスティーンのトランプへの発言のすべてを紹介しています。以下は、その記事と5月14日と17日のブルースの発言の日本語訳と動画です。これまで、よりも好きになりました。
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