超大国むしばむ最悪薬禍…致死量40億人分、メキシコに渡った危険物質
本当に興味深い記事です。以下は抜粋です。
トランプ米政権は、米国内でまん延する合成麻薬「フェンタニル」が原因だとして、中国、メキシコ、カナダに関税引き上げの強硬策をしかけようとしている。
ペンシルベニア州フィラデルフィア。米国の歴史と誇りを象徴するはずの古都の一角に、まるで別世界のような光景が広がっていた。25年2月下旬、市中心部にあるケンジントン地区を訪れた。
メトロの高架が影を落とす薄暗い通りには、汗や排せつ物にまみれたすえた臭いが満ちる。連なる商店は平日昼間なのにシャッターを下ろしたままだ。途中の空き地に無数の注射器が散乱する。肌を刺す冷たい風の中、路上には生気を失った人々があふれていた。
通行人が歩道に座り込んだ男性にしきりに声をかけていた。両足を力なく投げ出し、上半身を前倒しにして動かない。呼びかけに少し姿勢を変えたものの、それ以上の反応はない。視線は虚空をさまよい、魂が抜け落ちたかのようだった。専門家によると、フェンタニル中毒の典型的な症状だという。
惨状はフィラデルフィアだけにとどまらない。西部サンフランシスコ、北西部シアトル、同ポートランド、東部ニューヨーク……。米疾病対策センター(CDC)によると、フェンタニルなどの過剰摂取による死者数は22年までの5年間で6割も増えた。一日300人が亡くなっている計算だ。
フェンタニルは「オピオイド」と総称する麻薬性鎮痛剤の一種だ。脳と脊髄に作用し、痛みを和らげたり、多幸感を引き起こしたりする。本来は米食品医薬品局(FDA)も認可する医薬品で、米国では1960年代からがん患者の終末ケアなどに使っている。
問題になっているのは違法につくられたフェンタニルである。粉末や液体の前駆体を混ぜ合わせ、熱を加えて麻薬成分の純度を高めていく。化学の知識があって、必要な物質と器具を調達できさえすれば、誰でも合成できてしまうのだ。
従来型の麻薬は植物成分をもとにする。コカインはコカの葉を使い、ヘロインはケシからつくるが、原料栽培のための広大な土地や多大な労力が必要だった。フェンタニルは生産にかかるコストが圧倒的に安くすむ。効果もモルヒネの約100倍と極めて強い。
静脈内投与の場合、ただちに作用する。呼吸が浅くなり、全身の動きも鈍り、多くの中毒者が腕をだらりとたらしてうなだれる。「ゾンビドラッグ」とたとえられるゆえんだ。過剰摂取すると心拍数が低下し、時に心停止に陥る。依存性も高い。
注射や錠剤のほか、吸引型、皮膚に貼るパッチ型のフェンタニルが普及する。致死量の2ミリグラムは鉛筆の芯の先に載る程度でしかない。23年2月には日本でもフェンタニルを悪用した事件が起き、話題を集めた。47歳の女がフェンタニル成分を含んだシールを交際相手の男性の胸に貼り、死なせたとして逮捕された。つくりやすさ、効き目、安さ、使いやすさ。これらが、違法フェンタニルを爆発的に普及させる。
フォックスニュースは米国で広がるフェンタニル危機を「新アヘン戦争」と表現した。経済や軍事、外交で急速に追い上げる中国に、米国は恐怖を感じている。さらに麻薬で米市民を堕落させ、国力をそぎ落とそうとしている――。フェンタニル問題がどうしても現代版のアヘン戦争に映るのだ。
米政府は中国からのフェンタニル原料を受け渡しするメキシコにも、大きな責任があると主張してきた。フェンタニル危機は麻薬を求める米国内にこそ原因がある。メキシコ政府は再三にわたって米国側に協力を求めたが、その主張を真剣に取り合ってこなかった。米政府は自国の内政問題を他国に押しつけるくせがある。
取材班は次の目的地、マンサニージョ港へ飛んだ。見えてきたのはつながる世界の落とし穴ともいえる、国際麻薬ネットワークの輪郭だった。
フェンタニルは、がん患者の痛み緩和に不可欠な鎮痛剤で、日本でも普通に使われています。他の違法薬物とは全く違いますが、フェンタニル注射液は、「製造トラブルによる出荷停止」という理由で2024年10月から出荷調整が行われており、医療用の使用に支障がおこっています。上の記事のような事情が影響しているのでしょうか?次回の記事が楽しみです。
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