抗生物質の乱用が耐性菌の出現を加速している

今や菌に薬が効かない「ポスト抗生物質」時代に、年500万人死亡…増え続ける薬剤耐性菌に医師たちが警鐘、使い過ぎを抑える対策を
以下は、記事の抜粋です。


80年前にペニシリンが広く使われるようになった直後から、細菌は抗生物質(抗菌薬)をかわす方法を見つけ始めた。それ以来、危険な微生物と人類との間では“軍拡競争”が繰り広げられてきた。新たな研究によると、この闘いで人類は敗北を続けているという。

WHOによると、抗生物質への耐性をもつ細菌は、世界的な公衆衛生で最も重要な課題のひとつだという。これらの細菌により、世界では毎年推定約500万人が死亡している(日本では、重要な2種類の薬剤耐性菌の血流感染症で年間約8000人が死亡している)。細菌が抗生物質に耐性をもつようになると、医師は感染症を簡単に治せなくなる。

予備的な報告によると、米国ではコロナ禍の最中、入院患者のうち耐性菌に院内感染した割合が32%増え、入院患者1万人あたり38人にのぼったという。最も大きく増加したのは、「カルバペネム系」と呼ばれる抗生物質に耐性をもつ細菌による感染だった。それらには、重大な院内感染の原因となっているアシネトバクター・バウマニ、緑膿菌、腸内細菌目細菌が含まれる。

また、薬の開発も遅れている。米食品医薬品局(FDA)によって近年承認された新たな抗生物質は、その大半が従来の薬に変更を加えたものであり、耐性菌に作用する新しいメカニズムをもっていない。

研究者らは、保険会社や医療システムから集めた全米200万件の入院データを用いて耐性菌感染症に最もかかりやすいグループの特定を試みた。すると、ほかに病気をもっているほど、耐性菌感染症にかかる可能性が高いことがわかった。さらに、ヒスパニックや低所得者、教育水準が低い人々でも、感染率は増加していた。「社会的に弱い立場の人ほどリスクが高いということです」と研究者は言う。

どこで感染した場合でも耐性菌は重大な問題だが、院内感染はとりわけ厄介だ。その理由のひとつは、院内感染する耐性菌は一般に毒性が強く、より多くの抗生物質に耐性をもっている可能性が高いため、体に障害が残ったり、死亡したりする確率が高くなることだ。

科学者らは何年も前から、抗生物質の無差別かつ過剰な使用が耐性菌のまん延につながることを知っていたが、状況を変えるには至っていない。医療での使い過ぎに加えて、抗生物質は畜産や農業でも頻繁に使われている。「抗生物質はニワトリやウシの成長促進剤として使われたり、ナシやリンゴの木に散布されたりすることもあります」研究者は言う。

抗生物質や抗真菌薬にさらされると、多くの細菌や真菌は死滅するが、生まれつき耐性をもつものは生き残って増殖するだけでなく、その特徴をほかの微生物にも伝える。時がたつにつれ、一部の細菌が1つだけでなく複数の抗生物質への耐性遺伝子を蓄積していく。こうした多剤耐性の微生物は、とりわけ治療が難しくなる。

科学者らは、今も効果的な新薬を探し続けている。人工知能(AI)を活用して新薬の候補を見つけ出そうと試みる研究もある。一方、多くの病院では、耐性菌の感染を最小限に抑える手順を定め、手指の衛生、器具の消毒計画、院内清掃の改善などに取り組んでいる。

地域の診療所で患者を診ている医師もまた、患者を安心させるために抗生物質を出すなどの不必要な処方を控える必要がある。

抗生物質は、常に正しい解決策になるわけではない。副鼻腔炎という鼻の疾患は、アレルギーで起こる場合もある。インフルエンザの原因はウイルスだ。いずれのケースでも、抗生物質では改善は見込めない。

もしあなたが実際に細菌感染症にかかり、医師から幅広い種類の細菌に効く抗生物質を処方されたときには、より標的を絞った薬の方が効果があるのではないかと聞いてみてほしい。抗生物質の恩恵はいずれ失われる可能性があることを、われわれは理解する必要があります。間違った使い方をしていれば、その危険性はさらに高まります。


最近、発熱もなくくしゃみと鼻水だけの症状の人が、「速く治りたいので抗生物質を処方して欲しい。」と言ったので、思わず「これで抗生物質を処方するのはヤブ医者です。」と言ってしまいました。上の記事のような説明をちゃんとすれば良かったのでしょうか?

生き残った薬剤耐性菌が増える

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