「本当に」医者に殺されない47の心得 その3

医師 岩田健太郎(@georgebest1969)氏による「本当に」医者に殺されない47の心得

以下は、昨日までの続きです。今日で岩田先生の「心得」特集は終わりです。


[心得26] ポリファーマシーにサヨナラを
お薬をいろいろなところから、たくさんもらっている患者さん、とても多いです。こういう患者さんは、実は未知の相互作用、未知の副作用の危険に常に晒されているのです。こういうふうに、薬が増えて増えて、増えていってしまうことを英語でポリファーマシーと言います。ポリとは、「たくさん」の意味です。ファーマシーとは薬のことです。

ポリファーマシーは日本の医者の悪意の反映ではありません。むしろ、善意と誠実さの反映であると思います。それと、日本の医者の完璧主義の反映であると思います。全ての細かい問題を片っ端から正常化しようとすると、薬の害のほうが大きく出て、全体としては患者さんの不利益になります。

[心得27] 待ち時間は、患者が(も)悪い
風邪には抗生物質は効かないという話をなんどかしました。ぼくも風邪をひきますが、病院には行きません。自然に治るとわかっているのに、わざわざ長い時間待って医者にかかって、さらに(副作用の懸念のある)抗生物質をもらうなんて、ぼくに言わせれば正気の沙汰ではありません。

同様に、軽い下痢、軽い頭痛、軽いあれやこれや、、、、ではぼくは病院にいかず、「自然に治る」のを待ちます。要するに、自然に治る病気を慌てて治そうと無理をしないのが大事なのです。病院に行く必要があるのは、「自然に治らないような」重い症状、きつい症状に限定されます。

[心得33] 性教育と他者
冷静に考えたら、男性器も女性器も、それ単体では単にグロテスクで気持ち悪いものだと思いませんか。少なくとも、ぼくはそう思う。そこにセクシーさ、楽しさ、喜び、愛を感じさせるのは露骨な開示ではありません。微妙なファンタジーです。ファンタジーは、じらしであり、隠しです。露骨な露出が幻滅であり、「チラリ」にドキドキするのは、そのためです。枕草子に紹介されている、「あしひきの山井の水は氷れるを いかなるひもの解くるなるらむ」という歌は、「氷が溶ける」と「紐が解ける」を掛けていると説明しました。そして、それは衣服の紐で、「体を許す」という意味でした。

[心得35] どこまでウソか。エラスポールの話
ディオバンという高血圧の薬に関する不整疑惑が話題になっています。カルテのデータを捏造し、薬の(存在しない)効果を喧伝していたのですから、非常にたちが悪いです。販売元のノバルティスや研究を行った京都府立医大は「ディオバンの血圧を下げる効果は本当です」と主張していますが、そもそも両者は「ディオバンは血圧を下げるだけでなく、脳卒中とか本当に大事なアウトカムを良くするんです」と主張していたわけですから、そういう言い訳をするおことそのものがアクドイ、みっともない、とぼくなんかは思います。

さて、エラスポール。これはARDSという肺の病気の治療薬です。ぼくはメタ分析という手法で、「この薬はARDSには効かない」と主張しました。実は、海外ではもう、エラスポールはARDSには効かず、むしろ患者には有害かも、という研究がなされていました。ところが、「日本人は特殊だから、外国人とは違う」という理由で「日本でだけ」使われ続けていました。

[心得36] 高血圧学会がとるべき態度
「ディオバン事件」で分かったのは、ディオバンは血圧を下げてくれるけど、脳卒中や心筋梗塞を対照群よりも減らしてくれなかった(減らすというデータは捏造だった)、でした。なので、(高血圧学会の)「降圧薬を内服して血圧を下げることで、脳卒中や心筋梗塞の発症リスクを減らすことができます」は、非常に不誠実なコメントだとぼくは思います。

文部科学省の「規制」なんて、何の役にもたちません。ていうか、規制はたぶん、臨床試験を面倒くさくして、さらに患者の利益は遠ざかる皮肉な結果になるに決まっています。予言しときます。

[心得39] リビング・ウィルをどう考えるか。パラダイムシフトの可能性について
リビング・ウィルの方法はいろいろありますが、ぼく個人は「将来、万万が一大きな病気になって、口がきけなくなって、死にそうになったとき、いわゆる延命治療みたいなのをご希望ですか」というざっくりな聞き方をしています。

「人工呼吸器」が一般医療の1ツールにすぎないこと。その使われ方は個々の患者で異なること、患者の意見は一般的に撤回可能性が担保されていること。人工呼吸器という医療の1ツールだけ、それが否定されるのは奇妙であること。そう考えれば、この問題に一筋の光が見えてくるように、ぼくは思います。

[心得41] 患者の不利益はアンタッチャブルか
「患者会」や一般市民に反論するのは勇気が要ります。医者は患者のアドボケイト(支援者)であるのが原則だからで、それに反対するのは医者のレゾン・デートルそのものの否定になりかねないからです。ちなみに、厚生労働省の官僚も同じ「弱み」を抱えています。

アメリカなど諸外国の診療ガイドラインはネットで無料で公開されており、患者を含め誰でも読むことができます。でも、日本のガイドラインは今でも多くは有料で、場合によっては学会員限定。多くの人は目にすることはできません。ガイドラインは読まれてなんぼなので、実に不可思議な話なのですが、その大きな理由のひとつが「誰かに批判されると困る」なのです。プロとしては、情けない態度ですよね。高血圧学会を批判しましたが、実は日本の医学系学会の多くは、腰抜けです。

[心得42] 胃がん検診は本当に必要?
日本で行われているがん検診は、データ、証拠が不十分なままでなんとなく事業化されていることが、割と多いのです。本当にそれが必要なのか、単なるお金の無駄(あるいはある人達のお金儲け)になっているのかは、もっときちんと検証すべきだと思います。

ちなみに、ピロリ菌は胃がんの原因だから、ピロリ菌を殺せば胃がんは減るはずだ、と思うじゃないですか。ぼくもそう思います。ところが、ピロリ菌の排除で胃がんが減るか、あるいは胃がんによる死亡が減るかという研究はまだ十分に行われていません。このへんは議論の余地があるところです。また、除菌には3種類の薬を使いますが、その薬の副作用の害とのバランスを検証した研究はまだありません。要するに、「どっちが得か」、ぶっちゃけ教えてくれるわけではないのです。このように当然のごとく行われている胃がん検診事業ですが、案外その正当性を強く説得するほどの科学的バックグラウンドは少ないのです

[心得44] ぼくは出さない(飲まない)、PL顆粒
PL顆粒という薬があります。いわゆる「風邪薬」です。風邪「そのもの」を治す薬は残念ながら存在しません。では、PL顆粒には何が入っているのでしょう。PL顆粒に入っているのは、サリチルアミド(解熱鎮痛薬)アセトアミノフェン(やはり解熱鎮痛薬)メチレンジサリチル酸プロメタジン(抗ヒスタミン薬)カフェイン(カフェインです)。

さて、抗ヒスタミン薬とは何でしょうか。これは鼻水やくしゃみを止めてくれる薬です。アレルギー性鼻炎や結膜炎(たとえば花粉症)なんかにも使います。要するに、PL顆粒とは、熱を抑えて、鼻水を抑えて、くしゃみを抑えて、あとはカフェインですこ~しテンションを上げてもらって、風邪の症状を抑えこみ、「そのうち自然に治ってくれる」までの時間稼ぎをしているのです。

ですが、ぼくは基本、PL顆粒は処方しません。自分が風邪ひいても飲みません。とくに、高齢者の風邪には絶対にPLは使いません。

サリチルアミド。これは、ロキソニンやボルタレンの仲間です。NSAIDsと呼ばれるグループの解熱鎮痛薬で、胃潰瘍や、腎不全、それにアレルギー反応などが問題になることがあります。高齢者はとくに腎臓が危険です。さらに問題は、抗ヒスタミン薬である、メチレンサリチル酸プロメタジンです。抗ヒスタミン薬は、その副作用として、眠気が起きたり、口が乾いたり、便秘がひどくなったり、あるいはオシッコが出なくなったり(尿閉)することがあるのです。高齢者にはとくに、抗ヒスタミン薬が強く作用してしまうのです。PL顆粒を処方されたあと、おしっこがでなくなって入院、という高齢者を、ぼくは年に数回は見ます。また、眠気、ふらつきは転倒の原因になります。高齢者の転倒はバカにできなくて、頭を打って脳内出血(慢性硬膜下血腫。ぼくらの符丁では、「まんこう」という素敵な名前で呼んでいます)や、股関節の骨折の原因になります。怖いですよ。米老年医学学会(AGS)は高齢者への抗ヒスタミン薬の使用は避けるよう推奨しています。

PL顆粒のような、簡単な薬ほど誤用されています。とくに高齢者にはPL顆粒を処方すべきではありません。風邪には抗生物質は効きません。風邪にPL顆粒を飲むことはオススメできません。では、風邪をひいたら、どうしたらよいのでしょう。ぼくのオススメは、家でゆっくり寝ていることです。水分を十分に摂って脱水を避け、仕事や家事はいったんおやすみし、嫌なことは忘れてストレスを減らします。

[心得45] 高齢者の不眠は、難しい
デパスやハルシオンやマイスリーなどを高齢者が飲めば、だいたい13人に1人くらいの割合で眠りの質は改善します。でも、6人に1人は副作用に苦しむというデータもあります。どうも割にあわないですね。あるいは高齢者に「眠剤」を使い、その量を増やしていくと、どんどん死亡率が増していき、なんとガンも増えていく、という研究もあります。アメリカのFDAは「眠剤」の副作用を警告し、安易に用いないよう求めています。たかが眠剤、と医者の方も患者の方も眠剤をなめてかかっているところがありますが、そんなに生易しい薬ではありません、、、、なんて脅しをかけたら、モット眠れなくなるのかなあ。

高齢者はベンゾジアゼピンの作用が効きやすく、かつ抜けにくい(長く効果が続く)のが特徴的です。また、認知機能の低下、錯乱、転倒、骨折、交通事故などのリスクがあります。米老年医学学会は、ベンゾジアゼピン系の「安定剤」を不眠や急に混乱したとき(せん妄、といいます)に使わないように勧めています。あと、認知症の患者にも通常は使わないようにも勧めています。

全ての医療は、文脈依存的であり、その功罪は「使い方」次第です。全肯定も全否定もしないやり方で、お薬や医療と付き合っていきましょう。

[心得46] 医学・医療最大の敵は、「極論」である
本書は、「アンチ極論」のパロディです。上質なパロディは元ネタについて言及しないものですが、ま、ぼくはそんなに品は良くないので、出しちまいますね。本稿の元ネタ(パロディの対象)は、近藤誠氏の「医者に殺されない47の心得」と、内海聡氏の「医学不要論」です。ま、想像に難くないですよね。 両者の特徴は「極論」です。

本屋さんにいくと、医療・医学・健康本はこのような「極論」に満ちています。こうやれば健康になれる。こうすればガンにならない。こうやったら老化は防げる。こんなのばっかし。こういう断言口調の医療・医学・健康本はすべてインチキです。断言しときます。極論ですが(笑)。


PL顆粒のところ(心得44)とか、高齢者の不眠のところ(心得45)とかホントに素晴らしい文章だと思います。最後の心得(心得47)の以下の部分は特に印象に残りました。


ぼくの患者さんは多くの苦悩を抱えています。病気以外の苦悩も。お金がない、仕事がない、夫が言うことを聞いてくれない、姑がいじめる、職場でハラスメントがある、孤独だ、つらい、生きる理由を見つけられない、、、こういう患者さんに何の助けにもなりません。ぼくにできることは、ただ病気を見つけ、治療するだけ(できたとしたら)。それは、たくさんたくさんある患者の苦悩のほんのひとにぎりにすぎないのです。全人的医療なんて軽々しく口にすべきではありません。患者に自分の財布から金銭を与え、仕事を失った患者を雇用し、友人になって孤独から回避し、一緒に合宿やって家族との軋轢や、友人のイジメや、そうした全ての苦痛と取っ組み合う覚悟ができないぼくらが、軽々しく「病気を見ずに人を見る」なんて口にすべきではないのです。


あまり臨床を知らない私ですので、感心するばかりでコメントすることはあまりありません。これまで何となく考えていたことがはっきりしたり(風邪や高血圧や糖尿病などの薬や性教育など)、知らないことを教えてもらったり(良い医者のみわけ方や末梢循環改善薬やエラスポールやリビング・ウィルなど)、大変勉強になりました。

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