MEK阻害薬はBRAF変異を伴うメラノーマの生存を改善する

Improved Survival with MEK Inhibition in BRAF-Mutated Melanoma

以下は、論文要約の抜粋です。


背景:進行期メラノーマ患者の50%で、B-RAF(BRAF)の活性化変異が認められる。選択的BRAF阻害薬は、化学療法よりも生存を改善するが、効果が続かないことが時々ある。このような患者では、MEK阻害が有効である可能性が先行試験で示唆されている。

方法:本第3相非盲検試験で我々は、BRAFV600E変異またはBRAFV600K変異を有する転移性メラノーマ患者322例を、経口選択的MEK阻害薬であるトラメチニブ(trametinib)投与または化学療法に2:1の割合でランダムに割り付けた。トラメチニブ(2mg)は1日1回経口投与し、化学療法としては、ダカルバジン(dacarbazine、1,000mg/m2)またはパクリタキセル(175mg/m2)を3週間ごとに静脈内投与した。化学療法群で病勢が進行した患者は、トラメチニブ投与へのクロスオーバーが許可された。無増悪生存期間を主要エンドポイントとし、全生存期間を2次的エンドポイントとした。

結果:無増悪生存期間中央値は、トラメチニブ群で4.8ヶ月、化学療法群で1.5 ヶ月だった。6ヶ月時点での全生存率は、トラメチニブ群で81%、化学療法群ではクロスオーバーを行ったにもかかわらず67%だった。発疹、下痢、末梢性浮腫がトラメチニブ群でもっとも高頻度にみられた副作用で、投与の中断・減量により管理できた。無症候性かつ可逆的な心駆出率低下と眼毒性が低頻度ではあるが認められた。2次的な皮膚新生物は認められなかった。

結論:トラメチニブは、化学療法と比較して、BRAFV600E変異またはBRAFV600K変異を有する転移性メラノーマ患者の無増悪生存率と全生存率を改善した。


2010年以前には、転移性のメラノーマ(悪性黒色腫)の生存を改善する全身治療は存在しませんでした。しかし、関連記事のように、CTLA-4に対するモノクローナル抗体医薬であるイピリムマブ(Ipilimumab)と選択的BRAF阻害薬のベムラフェニブ(vemurafenib)の登場によって状況は一変しました。

メラノーマにおけるBRAFの活性化変異は2002年に報告され進行性メラノーマ患者の約50%に同定されました。最も多いV600E変異と2番目に多いV600K変異がBRAF変異の95%を占めています。V600E変異は結腸がんでも報告されています。

活性化されたBRAFはMEKをリン酸化して活性化し、MEKはその下流のMAPキナーゼを活性化して細胞をがん化させます(下図参照)。

GlaxoSmithKlineのトラメチニブ(trametinib、GSK1120212)は、低分子の経口投与可能なMEK阻害薬です。他のキナーゼ阻害薬の多くがATP結合を阻害するのと異なり、この薬はBRAFによるMEKの活性化とMEKの基質への作用をアロステリックに阻害します。

BRAF阻害薬との併用で抗メラノーマ効果が増強され、副作用も軽減されるという報告もあります。また、BRAF変異以外の理由でRAS–MEK–ERK経路が活性化されているがんにも有効である可能性があります。これらをみると非常に素晴らしい薬のようですが問題もあります。それは、治療に反応する患者の率が22%と低いことです。BRAF阻害薬に抵抗性を示すメラノーマにも無効だったようです。このような反応性の有無を生じるメカニズムの解明が重要だと思います。

RAS–MEK–ERK経路 (Montaguta and Settleman)

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