Strong Inference (複数の排他的な仮説を立てる)

Strong Inference

おもしろい現象がみつかったけれど、そのメカニズムがわからない。新しく発見した遺伝子やたんぱく質の機能を解明したい。このような場合、何をどのように考えて実験を進めればうまく行くのでしょうか?

私は、物理学者のJohn R. Platt氏が1964年にScienceに発表した”Stong Inference“という思考法が優れていると思います。Wikiにも取り上げられ、日本語訳もあります。以下は、そのエッセンスです。


1. Devising alternative hypotheses;
2. Devising a crucial experiment (or several of them), with alternative possible outcomes, each of which will, as nearly as possible, exclude one or more of the hypotheses;
3. Carrying out the experiment so as to get a clean result;
4. Recycling the procedure, making subhypotheses or sequential hypotheses to refine the possibilities that remain, and so on.


以下は、日本語訳と説明です。


1.排他的な仮説を複数立てる。例えば、「血管がアセチルコリンを投与すると弛緩する現象は内皮細胞に依存している。」と「同現象は内皮細胞に依存していない。」の2つの仮説を立てます。仮説を立てる場合、複数の排他的な仮説を立てて、全ての可能性をカバーすることが重要です。

2.立てた仮説の1つあるいはいくつかを否定する実験(or複数の実験)を考える。仮説を証明するよりも、否定する実験を考える方が簡単です。反例を示せば良いのです。上の例であれば、内皮をこすり取った血管にアセチルコリンを投与する実験です。

3.明確な結果を得るために実験を行なう。

4.残された可能性をさらに解明するためのサブ仮説や、発展させた仮説を考え、上と同様に仮説を否定し可能性を狭めていくための実験を行なう。これを繰り返す。上の例では、「内皮細胞が何か平滑筋を弛緩させる因子を遊離している」、「その因子はアドレナリンではない」、「その因子はNOである」などの仮説とこれらと対立する仮説を次々に考え、それぞれの可能性を否定するための実験を行なうことになります。


Wikiでは、Strong Inferenceの弱点を補うために、仮説を立てる前に、以下の2つの段階を置く”Strong Inference Plus”を紹介しています。


1. An exploratory phase: at this point information is inadequate so observations are chosen randomly or intuitively or based on scientific creativity.
2. A pilot phase: in this phase statistical power is determined by replicating experiments under identical experimental conditions.


以下は、日本語訳です。


1.予備段階:この段階では、情報が不十分なので、データをランダムに、あるいは直感的に、あるいは科学的創造性に基づいて選別する。
2.試験的段階:この段階では、同じ実験条件で実験を繰り返し、統計的検出力をはっきりさせる。


おもしろい現象や新しい遺伝子などに関して、再現性のある実験事実を蓄積し、これらを正しく把握してから仮説を立てるということだと思います。

仮説を考えることやこれをどうやったら証明(or否定)できるかを考えることは、非常に楽しいプロセスです。自分の実験だけではなく、隣でやっている人の実験についても考えましょう。

1つの仮説に固執せず柔軟に考えるStrong Inference的な考え方は研究だけではなく、臨床や他の世界でも役に立つと思います。ただし、予算獲得のためのプロポーザルの場合は、もっともらしい仮説を1つだけ書く方が良いかもしれません。

研究を進めるためにも楽しむためにも、Strong Inferenceを強くオススメします。

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