以下は、記事の抜粋です。
アフリカ・ソマリアの地下洞窟に生息する目が退化した魚は、約2日間の体内時計を持っているらしい。人間をはじめ生物はふつう1日(24時間)の周期性を持っているが、2倍近い長さ。イタリアなどのチームがプロス・バイオロジーに発表した。
代謝にかかわるホルモンの一種を使った実験で、この魚の細胞が38~47時間の周期性を持っていることを確認。さらにこの魚に1日1回規則的にエサを与え続けると、1カ月後には、エサがもらえる数時間前になると予知するかのように活発な動きを見せるようになったという。
生物は光を浴びて睡眠などのリズムを整えている。この魚は数百万年前から暗闇で生きてきたとみられ、目は退化して光には全く反応しないが、体内時計は維持しているという。
元論文のタイトルは、”A Blind Circadian Clock in Cavefish Reveals that Opsins Mediate Peripheral Clock Photoreception”です(論文をみる)。
約24時間の概日リズムは多くの生物に保存され、それが妨げられるとストレスを生じ、ヒトの場合は不眠やうつになるとされています。ヒトなどの哺乳動物では、概日リズムは太陽光への露光によって調節されています。網膜からのシグナルが視床下部の視交差上核の時計中枢にシグナルを送るのです。これが時差ボケした体内時計がリセットされるメカニズムです。
朝日の記事は、本論文をひどく誤って紹介しています。論文の本題は、「洞窟魚の体内時計周期が47時間」ということではまったくなく、概日時計を調節する光受容体を同定したという話です。
最もシンプルな脊椎動物モデル生物であるゼブラフィッシュは、脳の時計中枢に加えて、日光によって直接調節される「末梢時計」を持っています。研究者達は、この末梢時計にシグナルを送る「光受容器」を同定するために、数百万年間光のない洞窟の中で進化した盲目の魚(P. andruzzii)の概日リズム、時計中枢、末梢時計をゼブラフィッシュと比較しました。
下の写真のように、P. andruzziiには、眼もウロコもメラニン色素も退化して認められません。このような生物で、末梢時計の光による制御がどうなっているかを調べたのです。まず、行動を調べたところ、P. andruzziiには概日リズムがありませんでした。この魚が、2日を単位に行動しているように書いている朝日の記事はまったくの誤りです。さらに、P. andruzziiは、ゼブラフィッシュの時計遺伝子と非常に相同性の高い時計遺伝子のセットを全てもっているのですが、ゼブラフィッシュと異なり、時計中枢も末梢時計も光には反応しませんでした。
研究者達は、光に反応しない理由が受容体にあるのではないかと考え、受容体の候補分子、メラノプシンとTMTオプシンをコードする遺伝子を調べたところ、これらの遺伝子に機能喪失変異を見つけました。光に反応しなかったP. andruzziiの細胞にゼブラフィッシュのこれらの遺伝子を導入すると、見事に光に反応したという話です。
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