Nox2を介する酸化還元シグナルが、学習と記憶に重要な海馬の幹/前駆細胞群を維持する

Nox2 redox signaling maintains essential cell populations in the brain

以下は、論文要約の抜粋です。


活性酸素(reactive oxygen species, ROS)は一般に有毒物質と考えられており、脳組織はその高いエネルギーおよび酸素要求性のために、ROSに由来する酸化ストレスに対して特に感受性が高いと考えられている。

NADPH酸化酵素群(Nox)は痙攣、脳梗塞、神経変性などの原因の一つと考えられているROSを脳内で広く産生する。Nox機能の低下によりマウスやヒトで認知機能低下が認められることは知られているが、正常脳におけるROS産生の生理的意義は確立されていない。

研究者らは、新しく開発した過酸化水素(H2O2)の特異的蛍光指示薬Peroxyfluor-6 (PF6)を用いて、海馬の幹/前駆細胞群(adult hippocampal stem/progenitor cells, AHPs)がNox2によってH2O2を産生し、細胞内シグナル伝達を制御することによって正常な細胞増殖を維持していることを培養細胞と生体の両方で明らかにした。

これらの結果は、特定の脳細胞群を維持するためにはROSとその制御が必要であることを示しており、脳のROSは有害なだけであるとしてきた従来の伝統的な考えに対する挑戦である。


研究者らは、ラット脳から海馬を取り出しそのAHPsを培養し、高感度H2O2指示薬PF6を用いることで、AHPsが線維芽細胞増殖因子2(fibroblast growth factor 2, FGF-2)の投与に反応して産生するH2O2の測定に成功しました。

以前から、AHPsの増殖にはAktとよばれるリン酸化酵素が重要であること、AktのPI3K依存的な活性化がAHPs増殖に必須であること、さらにPI3Kと拮抗する脱リン酸化酵素のPTENはH2O2により酸化されると不活性化されることなどがわかっていました。

本研究では、培養細胞と生体のイメージングとノックダウンやノックアウトなどの遺伝学的実験を組み合わせた方法を用いて、 FGF-2を投与するとNox2によってH2O2が産生され、これがPTENを抑制してAktを活性化しAHPsの増殖を活性化すると結論しています(下図参照)。

Nox2ノックアウトで認知機能が低下する理由は、海馬の幹/前駆細胞群のH2O2による増殖制御異常であるという結論ですが、Nox2ノックアウトがコンディショナルではないので、発生レベルで異常を起こすなどの他の可能性はまだあると思います。

FGF-2によってAHPs細胞増殖が刺激される模式図(Nature chemical biologyより

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