米国リリー社、アルツハイマー型認知症治療薬Semagacestatの第III相臨床試験の予備段階の結果により開発を中止
以下は、記事の抜粋です。
米イーライリリー社は、8月17日、アルツハイマー型認知症治療薬候補として開発中のγセクレターゼ阻害剤semagacestatの開発を中止したと発表しました。
Semagacestatについて現在実施中の2つの長期第III相臨床試験からの予備段階の結果において、疾患の進行の抑制が見られず、認知機能の臨床的スコアの悪化を伴い、また日常生活能力も低下させたためです。
2つの主要な第III相臨床試験では、アルツハイマー型認知症患者2,600人を対象に、semagacestatとプラセボの比較が行われました。中間解析結果では、プラセボ群において、認知機能と日常生活能力の低下の予想通りの低下が見られました。
しかしsemagacestat治療群の被験者においては、同じ指標について、プラセボ群よりも統計的に有意な水準での低下が見られました。またsemagacestat治療群では皮膚がんのリスクも統計的に有意に高まることがデータにより示されました。
少し前のニュースです。”semagacestat”でグーグル・ニュースをサーチすると、500件以上のニュースが引っかかりますが、日本語のものは新華社通信ネットジャパン (会員登録)のものが1つだけです。かろうじて、上記のプレスリリースがみつかりました。日本でもきっと話題になるだろうと思って待っていたのですが、はずれでした。
現在使われているドネペジル(商品名:アリセプト)などのアルツハイマー病治療薬は、障害された神経細胞の機能を補助する薬であり、障害そのものを防ぐものではありません(関連記事)。
アルツハイマー病では、脳内にAβ(特にAβ42)とよばれるペプチドが蓄積することが知られており、このAβの蓄積が神経細胞を傷害するのではないかと考えられてきました。Aβはアミロイド前駆体タンパク質(APP)という物質から作られますが、その最終段階で働くのがγセクレターゼです(下図参照)。
このような背景から、γセクレターゼを阻害する薬物は神経細胞の障害や死を防ぎ、アルツハイマー病の根本治療薬になる可能性があると考えられ、多くの研究者がγセクレターゼ阻害薬の発見と開発に努力してきました。semagacestatは、その一番手だったのです。
γセクレターゼは発生・分化,幹細胞の制御にかかわるNotchをはじめ、さまざまな膜蛋白質を切断することが知られています。これが臨床試験での認知機能と日常生活能力の低下や皮膚がんの増加と関係しているのかもしれません。
既に次世代のγセクレターゼ阻害薬(あるいはモジュレーター)として、Aβ42の産生を特異的に阻害する薬物の開発が進められています。今回の臨床試験の結果は研究者にとってショックだと思いますが、これからの研究にとって貴重な財産になるはずです。アルツハイマー病の予防薬・根本治療薬の出現を願っています。
ベータ・アミロイド(Aβ 40/42)の産生(エーザイのサイトより)
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