「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」新原因メカニズム発見?

「ADHD」新原因メカニズム発見

以下は記事の抜粋です。


落ち着きがなく、教室を走り回るなどの行動をとる子供にみられる「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」の原因について、群馬大の下川准教授らの研究チームが新たなメカニズムを発見した。6月15日、生命科学分野で権威のある「欧州分子生物学機構学術誌」の電子版に掲載された。

下川准教授らは、ドイツのチームと共同で2000年から研究を開始。細胞膜の表面で情報を仲介するたんぱく質「受容体」の作用が過剰になり、多動症が起こることを解明した。

動物が行動を止めるには、細胞内の「CIN85」というたんぱく質が受容体を取り込んで壊すという過程を経る。下川准教授らが「CIN85」を持たないマウスを作製したところ、正常なマウスより総移動量や平均速度などが上回っていることが分かった。

さらに、行動量などを調節する神経伝達物質「ドーパミン」の分泌量と受容体との結合量を測定。正常なマウスより分泌量が多く、受容体が壊れずに残り、行動を促す情報を細胞に与え続けていることを発見した。

下川准教授は「将来的には人にも応用し、ADHDの診断基準として『CIN85』を調べたり、『CIN85』と同様の働きをする薬の開発につなげたりしてほしい」と話している。


元論文のタイトルは”CIN85 regulates dopamine receptor endocytosis and governs behaviour in mice”です(論文をみる)。

CIN85は全身に発現するアダプター・タンパク質ですが、脳に発現するものは2番目のエクソンを特異的に発現する「脳特異的アイソフォーム」です。研究では、2番目のエクソンを破壊することで、CIN85脳特異的アイソフォームが発現しないマウス(CIN85Δex2)を作成し、その解析を行いました。

CIN85Δex2マウスは、多動ですが、学習記憶機能に異常は認められませんでした。また、同マウスでは、線条体におけるドーパミン(DA)量、DA代謝産物、D2受容体の量が増加し、D2受容体の細胞内への取り込み(エンドサイトーシス)が低下していました。一方、D1受容体には変化がありませんでした。

免疫沈降法で、CIN85Δex2マウスの線条体では、D2受容体とendophilinというエンドサイトーシスに関与する分子との結合が35%低下することが示されました。これらに基づき研究者らは、D2受容体とendophilinの複合体形成とD2受容体のエンドサイトーシスをCIN85が促進すると結論しています。

以前のブログで、「現象だけでも十分おもしろいのに、メカニズムをしつこく問うて嫌がらせするのはやめてほしい」と書きましたが、この論文も「生命科学分野で権威のある」雑誌の査読者から「メカニズムの解明」をしつこく問われたような気がします。

論文をみただけでは、なぜ「ADHD新原因メカニズム発見」というタイトルが書けるのかわかりません。毎度のことですが、必要以上に煽るとせっかくの記事が台無しになってしまいます。

CIN85がendophilinやCblというユビキチン化酵素(E3)と共にEGF受容体のエンドサイトーシスに関わっていることは、かなり以前から良く知られています(論文をみる)。

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