以下は、記事の抜粋です。一部は元論文に基づいて修正しました(論文をみる)。
赤外線カメラとマイクを用いて野生のコオロギを観察し、その「性生活」をつまびらかにした研究成果が、6月4日のサイエンスに発表された。
英Exeter大の研究者らは、動作反応式赤外線カメラ96台とマイクをスペイン北部の野原に仕掛け、25万時間分のビデオを分析するとともに、DNA「指紋」を収集してオス・メス別に残した子孫の数を調べた。
オス・メスとも、最大40回と頻繁に交尾を行った。常に特定の相手というわけではなく、オスはメスを求めて「狩猟旅行」に出かけ、メスはすきを見てそばにいる別のオスと交尾する、といった行動が確認された。
子孫の数については、交尾をしたメスはそれぞれ数百個程度の卵を産んだが、成虫になるまで生き残る子孫の数は多くて数匹程度だった。しかしオスの場合、子孫の数に幅があり、繁殖まで生き残る子孫がいるオスは非常に少なかった。
また、予想に反して、オスの異性を引きつける能力と繁殖能力が比例しないこともわかった。一方、オスもメスも、交尾相手が多いほど、子孫の数も多かった。
元論文のタイトルは、”Natural and Sexual Selection in a Wild Insect Population”です(要約をみる)。
研究チームは、多くのコオロギの巣を24時間、繁殖シーズン中を通して観察するために、動作反応式赤外線カメラとマイクのネットワークを構築しました。
これによって、すべての成虫を標識し、交尾する相手、特定のオスとメスが一緒に過ごす時間、それぞれのオスがメスを呼ぶために鳴く時間、オスとオスとの戦い、などのすべてを記録しました。
子孫へのDNA伝播については、2006年の親と2007年の子孫について、11個のマイクロサテライト座位を調べて解析しました。
その結果、これまでの実験研究ではわからなかった複雑な事実が明らかになりました。たとえば、オスでは子孫の数に幅があり、繁殖まで生き残る子孫がいるものはほとんど存在しないことは理論上では予測されていましたが、実際にはほとんど確認されていませんでした。
また、記事に書かれているように、オスのメスを引きつける能力と繁殖能力が比例しないことは、これまでの実験室でのデータと異なっていたようです。自然による選択が加わったためだと思われます。
これらの研究に関わった人々の感想をそのまま紹介します(記事をみる)。
“You can be a big winner or leave no descendants at all. Most crickets fall into the latter group.”
“The cricket soap opera is a model of the life struggles of so many species. It tells us about how natural selection happens in the wild.”
175番の巣穴から出てきたコオロギのカップル(背中に標識されています)。
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