スピロインドロン類は強力なマラリア治療化合物

Spiroindolones, a Potent Compound Class for the Treatment of Malaria

以下は、論文の要約です。


最も新しく採用された抗マラリア薬、アーテミシニン(artemisinin)誘導体に対する耐性マラリア原虫の報告が最近増加しており、新しい薬物治療に対する要求が高まっている。

スピロインドロン類は、血中マラリア病原体を低ナノモル濃度で殺す強力な薬物である。作用メカニズムは病原体のタンパク質合成を阻害することによる。この類の化合物に対する耐性は、ATPase4 (PfATP4)というP-typeカルシウム輸送体における変異が原因である。

NITD609は、最適化されたスピロインドロンで、1日1回経口投与で有効であるような薬物代謝性質をもっており、ネズミの場合は1回だけの投与でも治癒させることができた。


国立感染症研究所のサイトによると、マラリアは世界で100カ国以上にみられ、年間3~5億 人の罹患者と150~270万人の死亡者があるとされ、この大部分はサハラ以南アフリカにおける5歳未満の小児だそうです。

病原体としては、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)、三日熱マラリア原虫(P. vivax)、卵形マラリア原虫(P. ovale)、四日熱マラリア原虫(P. malariae)の4種類が知られており、今回の論文では、熱帯熱マラリア原虫と三日熱マラリア原虫に対して極めて有効な薬物として、スピロインドロン類のNITD609が紹介されました。

古くから知られたマラリア治療薬としては、クロロキンがありますが、耐性のためにほとんど使えない(特に熱帯熱マラリアには)状況のようです。新しい薬物としてアーテミシニンの記載がありますが、上記の論文によると、アーテミシニンに対する耐性菌の報告も増えているようです。

NITD609は、即効性こそアーテミシニンに劣りますが、1日1回経口投与で有効であり、ネズミの場合ですが、100mgを1回経口投与すると100%治癒したという素晴らしい結果を示しました。ヒトへの応用が強く期待されます。ちなみに、NITDは、The Novartis Institute for Tropical Diseasesの略です。

おもしろいのは、NITD609に対して耐性を生じた原虫では、ATPase4 (PfATP4)というP-typeカルシウム輸送体に変異が集中的に生じたことです。この現象の理由として、PfATP4が薬物を輸送する、スピロインドロンによる細胞障害をPfATP4変異が緩和する、PfATP4自身がスピロインドロンの標的分子である、などの可能性が考えられています。

PfATP4は、分裂酵母Pmr1のホモログです。Pmr1は、ゴルジ体へのカルシウムやマンガンの輸送に関与しています。ヒトにもhSPCA1というホモログがあり、その異常がHailey-Hailey病の原因だとされています。NITD609が優れた抗マラリア薬として成功することを祈るとともに、PfATP4との関係がどう解明されるのか楽しみにしています。

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