The mutation spectrum revealed by paired genome sequences from a lung cancer patient
以下は、論文の要約です。
肺がんは、がんによる死因のトップであり、喫煙者の非小細胞がんがその多くを占める。これまでの研究で、肺がんにおけるいくつかの重要な体細胞変異が同定されているが、解析された遺伝子は限定されており、変異スペクトラムとしての情報も限られている。
最近、次世代シーケンサーを用いたがん細胞ゲノム配列決定により、白血病、乳がん、がん細胞由来細胞株などにおけるゲノムワイドな変異情報が解明されつつある。
本研究では、原発性肺腫瘍と隣接する正常組織の完全ゲノム配列を報告する。これら2つの配列を比較することで、5万個以上の1塩基変異を含む様々な体細胞変異を同定した。530の体細胞1塩基変異を立証したが、その中には、KRASがん遺伝子の変異やその他391のコード領域の変異、大規模な構造的変異などがあった。
これらは、新しい体細胞変異の大きなセットで、ゲノム全体では1メガ塩基あたり17.7個の体細胞変異があった。注目すべきは、発現遺伝子と非発現遺伝子あるいは、コード領域から上流5キロ塩基での変異率がはっきりと異なることである。
さらに、リン酸化酵素をコードする遺伝子において、アミノ酸が換わるような変異の確率が他のタンパク質をコードする遺伝子に比べて高いことがわかった。
以上のように、本研究は、一つの肺がん症例における体細胞変異を包括的に調べたもので、腫瘍環境における異なった選択圧力の存在を示した最初のものである。
患者は、51歳の白人男性で、腫瘍摘出までの15年間、1日平均25本のタバコを吸っていたそうです。がん細胞は、免疫組織化学などから典型的な未分化型の腺がんと診断されています。
次世代シーケンサーを用いて、腫瘍ゲノムは計171.25ギガ塩基(ゲノムを60回配列決定したことになる)、正常組織は計131.3ギガ塩基(46回分)の配列決定が行われました。
本研究により、肺がんの細胞が1塩基置換から染色体変化まで、数多くの変異をもっていることが示されました。実際、EGFR-RAS-RAF-MEK-ERK経路においては8つ以上の遺伝子が変異あるは増幅していることがわかりました。このことは、このがんの治療が難しいことも示唆しています。
今後、次世代さらには第3世代シーケンサーが普及し、このような個々のがんゲノム情報がある程度蓄積されれば、それほど遠くない将来、個人のゲノム情報と個別のがんゲノム情報に基いた薬物治療が行われるようになると思います。
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