26階建ての養豚ビル

えっ!?ビルの中で?中国・養豚業界に起きている「革命」、最新技術で超えた“しがらみ”、「養豚ビル」の実力、中国農業の近未来
非常におもしろい記事です。以下は、抜粋です。


中国の養豚業界に「革命」が起きている。 大資本VS零細農民。

中国養豚業界では長年、零細農民がコスト面で大資本を打ち負かしてきた。しかし、その図式がいま逆転しつつある。DX(デジタル・トランスフォーメーション)とAIを武器に、大規模業者がコスト面で零細事業者を圧倒し始めている。

26階建ての巨大養豚ビル。
湖北省鄂州市にそびえ立つ巨大養豚場は、「革命」の象徴として中国内外の注目を集め続けてきた。湖北中新開維現代牧業が運営するこの養豚ビルは2022年秋から操業を開始、1棟あたり60万頭、2棟で年120万頭の飼育が可能だという。

施設内部では、豚は階ごとに分けて飼育されている。飼料は中央制御室から自動で供給され、温度や湿度、換気もコンピューターによって管理される。給餌、清掃、防疫といった作業の多くは自動化されており、省人化が進んでいる。

センサーとカメラが豚の状態を監視し、異常があれば即座に警告が発せられる。養豚はもはや経験と勘に頼る仕事ではなくなりつつある。

農畜産業振興機構のレポート(2025年4月号)によると、養豚ビルの建設は20年以降に加速。中国政府は「年間10万頭の豚が生産可能な立体多層型大規模養豚場を150カ所建設する」との数値目標を打ち出している。前述の26階建てビルは飛び抜けて高層で、5~8階建てが多数を占めている。

養豚ビルの運営者は、既存の大規模養豚事業者が中心だ。ただ、高度なデジタルシステムは大手IT企業のソリューションを採用しているとみられる。

最も早くスマート養豚事業に取り組んだのは、ゲーム大手ネットイース。09年には自社農場を設立し、飼料供給の自動化やコンピュータービジョンによる豚のパーソナルデータ収集などのソリューションを開発した。80ヘクタールの大型養豚場を、たった6人の職員で管理しているという。

電子商取引(EC)大手アリババグループは18年に参入。QRコード型の入れ墨、声紋認識を使った個体管理、AIカメラによる豚の行動データの把握と健康分析、赤ちゃん豚の悲鳴認識などのソリューションを打ち出した。

通信機器・端末大手のファーウェイは21年にスマート養豚ソリューションを発表した。AIカメラによる顔認証・画像認証、豚に付けた無線タグによって、養豚場への不審な車両や人員の出入りを監視する。

従業員が消毒をさぼっていないか、野良猫やネズミ、鳥の侵入を検知する。豚一頭一頭に付けた無線タグで体温や運動データを個別に記録するなどの機能がある。他に、検索大手バイドゥやEC大手JDドットコムなど、IT大手は軒並み参入したと言っても過言ではない。

中国政府はデジタルチャイナ戦略を打ち出し、あらゆる分野の産業昇級(産業アップデグレード)、産業数字化(産業デジタル化)を推進してきた。畜産も例外ではない。

大資本が零細農民に勝てない理由
養豚の産業アップグレード戦略には疫病という追い風もあった。18年から20年にかけてのアフリカ豚熱の流行だ。この病気は、豚に対して極めて高い致死率を持つ。感染した豚の多くは数日以内に死亡し、有効なワクチンや治療法も長らく存在しなかった。このため、発生した場合には感染拡大を防ぐため、周辺の豚も含めて殺処分するしかない。

中国は世界最大の豚肉生産国であり、飼育頭数も膨大である。感染拡大を完全に封じ込めることは困難であり、数千万頭以上の豚が失われたと推計されている。

アフリカ豚熱流行により零細農家はリスクを恐れて養豚をとりやめ、供給は大きく減少。豚肉価格は一時、前年比で倍近くまで上昇し、消費者物価指数全体を押し上げる要因となった。また、厳格な防疫体制が必要となった。

豚肉価格の上昇と防疫体制の重要性は大規模投資に踏み切る理由となった。スマート養豚ソリューションの普及と養豚ビルの建設が、アフリカ豚熱流行下で進んだことは決して偶然ではない。

しかし、本当に持続可能なビジネスなのか、疑う声もあった。なぜならば、中国は過去に養豚の大規模化に取り組んできたが、何度も失敗してきたからだ。

大資本の前に超えられない壁として立ちはだかってきたのが、零細事業者だ。アフリカ豚熱流行前は、中国の豚肉生産量の約6割は零細事業者によって占められていた。

自宅の庭で豚を飼うので設備費ゼロ。世話は家族がするので人件費ゼロ。飼料には残飯も加えるのでエサ代も安く上がる。

物価を左右する「チャイナ・ピッグ・インデックス」
零細農家中心の養豚は防疫対策、環境対策として問題があるほか、物価安定という面でもマイナスだ。チャイナ・ピッグ・インデックスという言葉がある。

中国では豚肉は最も重要な食肉であり、消費量は全食肉の6割前後を占める。消費者物価指数(CPI)に占める豚肉の比重も大きく、豚肉価格の変動はそのまま物価全体を左右する。

中国のCPIが大きく上下する局面では、その背景に豚肉価格の急騰または急落があるケースが少なくない。このため市場関係者の間では、CPIの動きを「チャイナ・ピッグ・インデックス」と呼ぶようになった。

なぜこのような現象が起きるのか。最大の理由は、養豚業の供給構造が零細農家に大きく依存してきたことにある。

零細農家は市場価格に敏感に反応する。豚肉価格が上昇すれば飼育頭数を増やし、価格が下落すれば採算割れを避けるために飼育を減らす。しかし、豚は出荷までに通常6カ月前後を要する。この時間差のため、価格上昇局面で拡大した供給は、需要が落ち着いた後に市場へ一斉に流入し、今度は価格暴落を招く。逆に価格低迷期には農家が生産を減らすため、一定期間後に供給不足となり、価格が急騰する。

大規模養豚業者による安定供給ならば、過剰な豚肉価格の急騰、急落は抑えられるはずだ。それもあって中国政府は大規模養豚の拡大を推進してきたが、失敗が続いてきた。今回も同じことが繰り返されるのではないか。

アフリカ豚熱が流行している間は、零細事業者は養豚をひかえるだろうが、流行が収まれば生産が再開し、大規模農家は再び苦境に追い込まれる。ましてや、養豚ビルなどコストが高い農業ならばなおさらだろう。

コスト逆転の「革命」
アフリカ豚熱の流行が沈静化し豚肉価格が高騰したことを受け、零細事業者は養豚に戻ってきた。結果、豚肉生産が過剰になり、24年秋以降、価格は下落トレンドに入った。スマート養豚はこの波を乗り切れるのか、真価が問われる。

正邦科技、傲農生物、天邦食品など、経営危機に陥った大型養豚事業者も現れている。だが、トップ企業は零細事業者に負けないパフォーマンスを示した。

中国養豚最大手・牧原食品のアニュアルレポートによると、同社の豚肉コストはスマート養豚が始まった20年以降に低下し、直近では1キログラム(kg)あたり11元(約250円)台にまで低下している。零細事業者を含めた業界全体では14元(約310円)台で、コスト面で優位だ。零細農家がコスト優位を持つという従来の常識は、すでに崩れた。

コストの大半は飼料でありその価格変動に左右される面が大きいが、零細事業者との価格競争に負けない競争力を備えたことは特筆に値する。また、PSY(年間母豚当り離乳子豚数)も大きく向上し、20頭台後半に達した。10年前と比べて約30%の向上で、中国の繁殖技術が着実に成長していることをうかがわせる。

牧原食品は2月、香港証券取引所に重複上場し、2000億円強を調達。その資金で東南アジアへの展開を強化する方針だ。

すべての中国大規模養豚事業者が勝っているわけではないが、零細事業者に打ち勝ち、前進する企業が現れているのだ。

中国農業の競争力を変える可能性
この流れは今後も続きそうだ。中国共産党中央は毎年、最初に発表する政策文書、通称「一号文件」で、農業問題を取りあげることが慣例となっている。今年の一号文件では「農業農村の現代化」をテーマとし、農業畜産におけるAIやドローン、IoT(モノのインターネット)など先端技術の普及加速を打ち出している。

中国農業は遅れている、日本は先進的という固定観念に縛られているのは危険だ。零細農家が支配してきた中国養豚業は、いま資本と技術によって再編されつつある。この「革命」は、中国農業の競争力を根本から変える可能性を秘めている。

日本でも、農林水産省が主導し、農業DXの社会実証が行われている。AIやロボット、IoTを活用した興味深いプロジェクトが多い。ただ、残念なのがそのほとんどがいずれも社会実証にとどまり、大規模な社会実装に移行できない点にある。

日本のテックは社会実証ばかりで、実装が進まないとはよく言われる話だが、農業も同じ罠に陥っている。隣国・中国が明確な結果を見せている中、日本も技術の開発や実証だけではなく、どう普及させるかについての真摯な取り組みが必要なのではないか。


日本では、お米の生産と同様、JAなどの既得権益団体が零細事業者保護に回るので、こんな豚ビルは10年待ってもできないでしょう。今後しばらくは、いわゆる「食料安全保障」のために無駄に高い食費を払うことになるような気がします。

中新開維現代牧業が建設した26階建ての豚舎。2棟目もすでに稼働している。合計で毎年120万頭の豚を出荷できるようになる。

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