LDLコレステロール、「スタチン使って70未満」が理想
以下は、記事の抜粋です。
「認知症の後天的リスク第1位は中年期の高LDLコレステロール血症」という事実は認知症予防のパラダイムシフトだと考えている。なにしろ2024年7月にLancet誌でこの論文が発表されるまで、僕は診察室で「LDLコレステロール値が少々高くても心血管系疾患の他のリスク因子がないのなら薬は不要です」と言っていたのだ。現在は「LDLコレステロール値を下げるのは心血管系疾患よりもむしろ認知症予防にとって大切なんですよ」と説明内容を大きく変更し、そしてスタチンの積極的処方に踏み切ったわけだから、まさにパラダイムシフトと呼べるだろう。
では、LDLコレステロール値はいくらまで下げればいいのだろうか。最近、BMJグループのJ Neurol Neurosurg Psychiatry誌で発表された韓国の大規模調査に鑑みれば、最も理想的なLDLコレステロール値は「スタチン使って70未満」となる。
LDLコレステロール値と認知症の関係をおさらい
まず、認知症のリスクは「先天的リスク」(=変えられないリスク)と「後天的リスク」(≒変更可能なリスク)に分けられる。先天的リスクには「年齢」「性別」「遺伝」がある。高齢になるほど発症リスクが高くなるのは自明であり、女性が男性よりリスクが高いのも周知の事実と言えるだろう。
「遺伝」のリスクも明らかであり、2024年にScience誌に掲載されたグラフは、アルツハイマー病の発症リスクに関連するApoE遺伝子ε4をホモで保有していれば75歳の時点で8割がアルツハイマー病を発症することを示している。
では、認知症の先天的リスクと後天的リスクの比はどれほどなのか。先述の2024年のLancet誌によると、後天的リスク45%のうち、最大のリスクは「中年期の難聴」と並んで「中年期の高LDLコレステロール血症」で、共に7%だ。7%というこの数字は、「後天的リスクの中で」ではなく「全体のリスクの中の7%」であることに注意されたい。
韓国の調査から導き出されるLDLコレステロール値の適正値は?
では、心血管系疾患ではなく認知症のリスクを考えたとき、LDLコレステロール値の適正値はいかほどなのだろう。英国の研究によれば、「LDLコレステロール値が3mmol/L(=116mg/dL)を超えれば認知症発症リスクが33%増加する」とされている。厚生労働省が「高LDLコレステロール血症の診断基準は140mg/dL以上」としていることを考えると、「LDLコレステロール値が116mg/dL以上で認知症のリスクが33%上昇する」はショッキングなデータと言えるだろう。
そして、2025年4月に発表された韓国のデータはさらに衝撃的な数値を示した。
●対象者は1986年11月から2020年12月までの18歳以上の外来患者。後ろ向き観察比較コホート解析。LDLコレステロール値が70mg/dL未満、および130mg/dL以上の約10万9000人のデータが解析された
●LDLコレステロール値が70mg/dL未満の場合、130mg/dL以上と比較して、全認知症リスク、アルツハイマー病のリスクがそれぞれ26%、28%低下していた
●スタチンを使用している集団で見ると、LDLコレステロール値が70mg/dL未満の場合、130mg/dL以上の場合と比べて全認知症リスク、アルツハイマー病のリスクがそれぞれ13%、14%低下していた。しかし、55mg/dL未満では、130mg/dL以上と比較してリスク低下は認められなかった(よってスタチン使用により55mg/dL未満にする必要はない)
●LDLコレステロール値が70mg/dL未満のスタチン使用者は非使用者と比較して、全認知症リスク、アルツハイマー病のリスクがそれぞれ13%、12%低下していた(同じ数値でもスタチンを使用している方がリスクは下がる)
●LDLコレステロール値が130mg/dL以上のスタチン使用者は非使用者と比較して、全認知症リスク、アルツハイマー病のリスクがそれぞれ7%、10%低下していた(この場合も、同じ数値でもスタチンを使用している方がリスクは下がる)
さて、この基準に従って高LDLコレステロール血症に対してスタチンを処方している日本の、そして世界の内科医や総合診療医はどれくらいいるのだろう。
最近Lancet Public Health誌に発表された論文によると、371の疾患が分析された日本人の死因第1位は認知症であり、全死因の12.0%に相当する(ちなみに、第2位から5位は、脳卒中、虚血性心疾患、肺癌、下気道感染症)。また、認知症を発症すれば、あるいは認知機能が低下すれば、健康への関心が低下し、体重コントロール、食事や運動などのライフスタイルが乱れることは想像に難くない。そしてそこから他の疾患を発症して認知症以外の死因で死に至ることもあるだろう。
これらを考えると、我々臨床医はこれまでよりも認知症のリスクとしての高LDLコレステロール血症に注目し、スタチンの処方をより積極的に検討すべきではないだろうか。
韓国の論文は、「LDL-C値が低いこと(70 mg/dL(1.8 mmol/L)未満)は、ADRDを含む認知症のリスク低下と有意に関連しており、スタチン療法はさらなる保護効果をもたらす。これらの知見は、認知症の予防戦略として標的を絞った脂質管理の必要性を裏付け、個別化された治療アプローチの重要性を示唆している。」と結論しています。
70 mg/dL未満が130mg/dL以上と比べて、低リスクであることはわかりましたが、その間(70 mg/dL以上130mg/dL未満)のグループとの違いは論文要約には書かれていません。この点は少し気になりますが、参考になる記事です。
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