疾患の検出や発症予測、血液検査が一助に?
以下は、記事の抜粋です。
定期健診で一般的に行われている血液検査の検体には、検査を受けた人の健康状態について現在医師が得ている情報よりも多くの情報が隠されているようだ。全血球計算(complete blood count;CBC)と呼ばれるルーチンで行われている血液検査が、心疾患や2型糖尿病、骨粗鬆症、腎疾患など数多くの疾患の検出や発症の予測に役立つ可能性のあることが新たな研究で示された。
CBCでは、全身を循環している血液中の赤血球、白血球、血小板数を測定する。マサチューセッツ総合病院のJohn Higgins氏らは、今回、1万2,407人の健常者から採取された血液を用いて、CBCによって測定される10種類の血液成分について調査し、患者ごとのばらつきを計算した。調査した成分は、赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)、血小板数(PLT)、ヘマトクリット値(HCT)、ヘモグロビン濃度(HGB)、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)、平均血小板容積(MPV)、赤血球分布幅(RDW)である。その結果、性別や人種/民族、年齢の影響を受けることのない、それぞれの患者に固有の「セットポイント(基準値)」が存在することが明らかになった。研究グループは、これらのセットポイントを活用することで、医師は一見健康そうに見える人でも早期の段階で疾患を診断できる可能性があると話す。
次に、セットポイントが推定されてから15年間の追跡データがそろう1万4,371人のデータを用いて、セットポイントと全死亡リスクや主要疾患の発症リスクとの関連を検討した。その結果、多くの指標において、セットポイントの値が高くなるか低くなるにつれ10年間の死亡リスクが上昇することが明らかになった。ただし、ヘマトクリット値(HCT)とヘモグロビン濃度(HGB)に関しては、セットポイントの値が中間で最もリスクが低く、両極端の値(高過ぎる、低過ぎる)でリスクが上昇することが示された。また、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)のセットポイントが低いことは心筋梗塞や脳卒中、心不全のリスク上昇と関連し、白血球数(WBC)の高いセットポイントは2型糖尿病、平均赤血球容積(MCV)の高いセットポイントは骨粗鬆症、HCTの低いセットポイントは慢性腎臓病、赤血球分布幅(RDW)の高いセットポイントは心房細動、赤血球数(RBC)の低いセットポイントは骨髄異形成症候群のリスク増加と関連していた。
Higgins氏らは、「セットポイントを調べることで、本研究で対象となった健康な成人の20%以上が、その値の逸脱により、10年間での全死亡や心血管疾患や糖尿病などの早期介入が有効な主要疾患の診断の絶対リスクが2〜5%以上増加することが示唆された」と述べている。
なお、今回の研究の結果は先行研究の結果とも一致しているという。例えば、HGBの低下は心筋梗塞のアウトカムに関連し、MCVは大腿骨近位部骨折に、またWBCは糖尿病に関連していることが示されている。
Higgins氏らは、「これらの関連が生じるメカニズムの解明にはさらなる研究が必要だが、今回の研究では、セットポイントが複数の疾患において、2〜4倍の相対リスクの層別化を可能にすることが示された。これは、家族歴や一部の遺伝子変異を含む一般的な疾患のスクリーニング因子による相対リスクの層別化に匹敵する」と結論付けている。
元論文のタイトルは、”Haematological setpoints are a stable and patient-specific deep phenotype(血液学的セットポイントは安定した患者固有の深部表現型である)”です(論文をみる)。
全血球計算(complete blood count;CBC)は、ほぼどこのクリニックでもすぐにできる検査です。上記以外にも、喫煙で白血球数(WBC)が増加することや、飲酒で平均赤血球容積(MCV)が増加する大球性貧血になることが分かっています。これらの変化や赤血球数(RBC)やヘモグロビン濃度(HGB)は急激な変化が起これば臨床の現場でも気が付くことができますが、この論文で指摘されているような「セットポイントからの変化」に気づくことは難しいと思います。これこそ、AIの出番だと思います。電子カルテメーカーの皆様、導入をお願いします。
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