GDF15（Growth Differentiation Factor 15）というホルモンがつわりに関係している

医学・医療・健康

Closeup side view of late 20's pregnant woman feeling morning sickness. She's leaning on a chair and holding her other hand over mouth because she feel she's going to throw up. Wearing pink tank top and beige pregnancy pants. gilaxia/Getty Images

2023.12.26

妊婦のつわりの原因を特定、重症化予防の可能性も　英ケンブリッジ大研究
以下は、記事の抜粋です。

「つわり」は妊娠中の母親が胎盤を通じて胎児から受けとる特定のホルモンに関連しているとする研究論文が発表された。つわりの原因解明につながる研究結果であり、妊娠前の女性にこのホルモンを投与することで、重いつわりを回避できる可能性が出てきた。
成長分化因子15 (GDF 15) として知られるこのホルモンは、人間の体内で生涯を通じて産生され、食欲や吐き気を感じる脳の部位に信号を送るタンパク質で、母体の胎盤に多く含まれている。

12月13日に発表されたケンブリッジ大学などの研究によれば、つわりの重症度には、胎児が作り出すGDF15の量と、母親がGDF15の吐き気作用に対してどれだけ敏感かが直接関係している。母体における胎児由来のGDF15値は、妊娠期間とともに増加し、GDF15に対する母親の感受性の高さは、妊娠前の母体のGDF15値に左右される。

GDF15はあらゆる人間の体内で産生される。その血中濃度は、加齢、激しい運動、がん、喫煙、糖尿病治療薬メトホルミンを含む一部薬剤などによって上昇することがわかっている。

つわりは妊婦の70～80％が経験する非常に一般的な症状だが、正確な原因は不明で、かつては低血糖やホルモンバランスの乱れが原因ではないかと考えられていた。

研究チームは、GDF15の長期的な投与によって、つわりが重症化して妊娠悪阻を発症するリスクを低減できると考えている。

研究チームによると、糖尿病治療薬のメトホルミンを用いて妊娠前の女性のGDF15値を上昇させる臨床試験が現在進行中。メトホルミンを2週間服用した糖尿病患者のGDF15値は約2.5％上昇した。

胎盤中のGDF15値の上昇と、妊娠悪阻を含むつわりの重症化との関連は、既に指摘されている。しかし、今回の研究は、妊娠前にGDF15への曝露を増やすことで、つわりが有意に軽減できることを発見した。

元論文のタイトルは、”GDF15 linked to maternal risk of nausea and vomiting during pregnancy（GDF15は妊娠中の吐き気と嘔吐の母体リスクと関連する）”です（論文をみる）。

GDF15（Growth Differentiation Factor 15）というホルモンのことも、メトホルミンがGDF15を増やして食欲を低下させることが体重低下の原因と考えられていることも知りませんでした。

以下は、Nature誌が紹介している記事の抜粋です（記事をみる）。

妊婦がつわりを経験する原因を調べる
ある特定のホルモンの値が高いことが妊娠中の吐き気（つわりを含む）に関連していることを報告する論文が、掲載される。今回の結果は、この複雑な代謝過程を解明し、今後利用できる可能性のある治療法を示している。

大多数の妊婦（70％）が悪心や嘔吐を経験するが、その一部で重症化して、妊娠悪阻（おそ）の発症に至る場合がある。GDF15（Growth Differentiation Factor 15）というホルモンがつわりに関係していることが既発表の文献で指摘されているが、その基盤となる機構はよく分かっていない。

今回、Stephen O’Rahillyらは、妊娠第1三半期の妊婦のGDF15値を測定し、悪心と嘔吐（妊娠悪阻を含む）の自己申告とGDF15値が高いことの間に顕著な関連性を見いだした。胎盤試料と母体試料のさらなる分析によって、母体血漿中を循環するGDF15の大部分が胎児に由来することが明らかになった。また、妊娠前のGDF15値が低いほど、妊娠悪阻の発症リスクが高くなることが判明した。逆に、βサラセミア（GDF15値が慢性的に高い疾患）の女性は、妊娠中に悪心と嘔吐を報告する頻度が非常に低かった。以上の結果は、妊娠前のGDF15値が低い人ほど、妊娠中のGDF15値の増加に対する感受性が高く、そのためにGDF15が誘発するつわりが重症化することを示唆している。

今回の知見は、胎児由来のGDF15と妊娠悪阻の発症リスクの間に因果関係が存在している可能性を示唆しており、当初のGDF15値が低い人ほど、妊娠第1三半期にGDF15値が上昇するにつれてつわりを経験する可能性が高くなる。

Closeup side view of late 20’s pregnant woman feeling morning sickness. She’s leaning on a chair and holding her other hand over mouth because she feel she’s going to throw up. Wearing pink tank top and beige pregnancy pants. gilaxia/Getty Images