以下は、記事の抜粋です。
乳がんや悪性度の高い皮膚がんの悪性黒色腫など複数のがんの原因になる強力ながん遺伝子を発見したと、自治医大のチームが2月5日付のPNASに発表した。この遺伝子を狙った新たな抗がん剤の開発につながる成果としている。
チームは、30代の線維肉腫患者のがん細胞を独自に開発した手法で分析。「RAC1」という遺伝子が変異してがん遺伝子として働き、この線維肉腫の主な原因となっていることを突き止めた。
また、線維肉腫以外でも、悪性黒色腫や一部の乳がん、膵臓がんなど6種のがんで、RAC1やその仲間の遺伝子に変異があることを発見。
元論文のタイトルは、”Transforming mutations of RAC guanosine triphosphatases in human cancers”です(論文をみる)。また、科学技術振興機構(JST)からは、「新しい“横綱がん遺伝子”RACを発見 —有効ながん分子標的治療薬実現への道を開く—」という発表がされています(発表をみる)。
がん遺伝子に「横綱」とかがあるとは知りませんでした。多くのがんは、がん抑制遺伝子の機能低下でおこるのですが、この場合はRASと似てRACの機能亢進でおこることが珍しいため、「横綱」と呼びたいのかもしれません。
記事では、RACという遺伝子がこの研究で初めて発見されたかのように書かれていますが、RACの発見は20年以上前です。また、乳がんなどにおけるRACの重要性も以前から指摘されています。正確には、RACの点突然変異でがん化することが本研究で初めて発見されただけです。また、乳がんや悪性黒色腫にRAC遺伝子変異が存在したとありますが、多くの乳がんや悪性黒色腫にはRACの遺伝子変異は存在せず、別の変異が存在します。
もっと有名な大横綱の遺伝子にRASがあります。RASは、最も初期に発見されたがん遺伝子の1つですが、その活性型変異を標的とする分子標的薬は未だ臨床応用されていません。嘘ではありませんが、誤解を生む誇大な記事だと思います。
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