世界初、乳酸菌で多能性細胞 熊大グループ成功
以下は、記事の抜粋です。
熊本大の太田准教授の研究グループが、ヒトの体細胞に乳酸菌を取り込ませ、さまざまな種類の細胞に分化できる能力を持つ多能性細胞を作りだすことに成功したことが12月28日分かった。
多能性細胞には、京大の山中教授が開発した4つの遺伝子を細胞に加えて作るiPS細胞があるが、乳酸菌などバクテリアを使った多能性細胞の開発は初めてという。
乳酸菌は代謝により乳酸を生成するバクテリアで、一部はヒトの体内にいる。グループは、ヒトの皮膚細胞周辺のタンパク質を除去し、細胞に乳酸菌を取り込ませて培養したところ、細胞が増殖。この細胞が多能性を持つことを試薬で確認した。これまでに5種類の細胞(神経、筋肉、脂肪、骨、軟骨)への分化にも成功したという。
iPS細胞が一定条件下で増え続けるのに対し、この細胞は直径0.3ミリ程度まで成長すると増殖が止まるのが特徴。マウス実験ではがん化も確認されていない。
太田准教授は「開発した細胞に、iPS細胞を増殖させる遺伝子を取り込むなどの試みを続けることで、がん化せずに増殖する多能性細胞ができるかもしれない」と話す。論文は26日、プロスワン誌に掲載された。
元論文のタイトルは、”Lactic Acid Bacteria Convert Human Fibroblasts to Multipotent Cells”です(論文をみる)。
元記事に、「文科省iPS細胞等研究ネットワーク運営委員会の須田慶応大教授は『論文を驚きを持って受け止めた。多能性細胞ができるメカニズム解明に乳酸菌という全く別の視点が加わり、iPS細胞研究の進展や医療への応用につながる可能性がある』と話している。」とありますが、本当に驚きの内容です。
乳酸菌などの腸内細菌は我々の腸管上皮細胞にエピジェネティックな影響を与えることは既に良く知られた事実のようです。本研究では、乳酸菌がヒトの皮膚細胞にどのような影響を与えるかをみるという画期的なものです。
培養した皮膚細胞の細胞表面のタンパク質を酵素処理で除いて乳酸菌を加えると、乳酸菌は皮膚細胞の細胞質内に取り込まれた状態になります。そして、ES細胞が作るembryoid body類似の細胞クラスターをつくるそうです。様々な実験により、このクラスターを作る細胞がリプログラムされていることが証明されました。
この乳酸菌を組み込んだクラスター細胞は、Nanog、OCT3/4、SOX2などの多能性マーカー遺伝子を発現しており、ESやiPSなどの初期化された細胞に特徴的な遺伝子発現パターンとよく似た性状を持っています。また、培養条件を変えることで脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などに分化し、in vivoおよびin vitroの両方で、3胚葉すべてのの細胞型に分化することも示しています。
メカニズム的にはよくわからないことも多いですが、非常にユニークで面白い研究だと思いました。がん細胞に乳酸菌をかけて、性質の変化を調べて欲しいです。
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