以下は、論文要約の抜粋です。
Wnt/β-カテニンシグナルは発達と組織ホメオスターシスを制御している。さらに、恒常的に活性化されたβ-カテニンは大腸がんを引きおこす。しかし、活性型β-カテニンを抑制することはこれまでできなかった。
我々は、β-カテニンとその補助因子であるBCL9の結合を阻害する低分子化合物スクリーンを行い、5種類の天然物を同定した。これらの中の1つ、ローズマリーに含まれるcarnosic酸は大腸がん細胞のβ-カテニンによる転写活性化を抑制する。
実験によって、carnosic酸応答にはβ-カテニンのBCL9結合部位のN末側に隣接する脆弱なαへリックス(H1)が必要であることがわかった。さらに、β-カテニンシグナルが異常に活性化した大腸がん細胞では、carnosic酸は活性型(発がん型)β-カテニンのプロテアソームにおける分解をH1依存的に促進する。
これらの結果は、H1はβ-カテニンの「アキレス腱」であり、発がん性β-カテニンの不安定化の標的になり、β-カテニン阻害薬開発への道を開くものである。
Wntは、マウス乳がんの原因遺伝子int-1の産物として同定され、ショウジョウバエの体節形成にかかわるWinglessとの相同性から名づけられた体軸形成、中枢神経発生、器官形成にかかわる糖タンパク質です。Wntシグナルはいろいろな疾患と関連していますが、がんとの関連が特に注目されています。Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の恒常的活性化が、家族性大腸腺腫症や大腸がんを引きおこすことはよく知られています。
アキシン(Axin)とAdenomatous polyposis coli (APC)がん抑制遺伝子産物は、glycogen synthase kinase 3 (GSK3)によるβ-カテニンのリン酸化を促進します。リン酸化されたβ-カテニンは選択的にプロテアソームで分解されます。大腸上皮細胞内でAPCに変異がおこりその機能が低下すると、β-カテニンはリン酸化されなくなり異常に安定化してしまい、がん化の引き金になります。同様に、カテニンのリン酸化部位に変異がおきてリン酸化されなくなった場合もがん化が起こります。
リン酸化されないβ-カテニンが蓄積すると、T-cell factor/lymphoid enhancer factors (TCF/LEF)というDNA結合タンパク質と反応し、様々な転写コアクチベーターをリクルートして転写を活性化します。その結果、細胞増殖やがん化がおこります。BCL9はこのβ-カテニンとTCFの相互作用を促進します。研究者らは、β‐カテニンとBCL9との相互作用を阻害する低分子化合物としてcarnosic酸を同定しました。
ローズマリーは、シソ科のハーブで、我が家の庭にも生えています。消化促進や神経安定の効果があるとされ、若さを保つハーブとも呼ばれています。これらがcarnosic酸の効果かどうかはわかりませんが、大腸がんにも効果があるとすれば、ラムの臭い消しなどの目的で肉料理に使うのはリーズナブルかもしれません。
下図のように、carnosic酸は本来アグリゲーションしやすいβ‐カテニンをさらに不安定にしてアグリゲーションさせ、分解に導くと考えられています。
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