以下は、記事の抜粋です。
さまざまな組織になることができるヒト胚性幹細胞(ES細胞)を使って、目の網膜を治療する臨床試験(治験)で、患者の視力の改善効果があったとする成果を、米国の研究チームが1月23日付の英医学誌ランセット(電子版)に発表した。移植された細胞に異常や拒絶反応もないという。
アドバンスト・セル・テクノロジー社と米カリフォルニア大のチームは、失明につながる「加齢黄斑変性」と「黄斑変性」の患者を対象にES細胞から作った網膜色素上皮を移植する治験を昨年から始めた。
移植から4カ月までに患者2人の網膜色素上皮は定着、細胞の異常増殖やがん化は確認されていないという。安全性を確かめる試験で、実用化には有効性の立証が必要になるが、特殊な視力表を使った検査で視力の改善がみられたという。ヒトES細胞の治験の成果が明らかになるのは初めて。
元論文のタイトルは、”Embryonic stem cell trials for macular degeneration: a preliminary report”です(論文をみる)。
論文には、ヒトES細胞由来の網膜色素上皮細胞は、患者に移植後4ヶ月は、過増殖、腫瘍化、異所性組織形成、あるいは拒絶反応などの兆候を示さなかったと書かれているだけです。2例、しかも4ヶ月しかフォローしていないのに、「副作用なし」とは、いくら朝日でも書きすぎでしょう。
AFPのニュースによると、治験では、加齢黄斑変性症の70代女性患者と黄班変性症の一種であるスタルガルト病の50代女性患者に、網膜色素上皮層の代替細胞に分化させたES細胞約5万個を移植したそうです。
移植から4か月後、70代女性の方は移植前、視力表で21文字が判読できたが、移植から2週間後に33文字に増加し、その後28文字で安定するようになり、スタルガルト病の50代女性は、移植前には手の動きを判別できる程度だったのが、移植後は指の1本1本が見えるようになったそうです。
しかし、論文のコメントは極めて慎重で、「今の段階では、論文で報告した患者の視力の回復が、移植した細胞のためか、免疫抑制薬のためか、あるいはプラセボ効果なのか、まだわからない。」と書いています。コストの問題は残りますが、ES細胞から99%以上ピュアな網膜色素上皮細胞をつくった技術はすごいと思います。
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